保険の本来の機能は、「保障」です。それは国の社会保険や健康保険、介護保険でも同じことがいえます。
つまり、保険の仕組みがわかれば、おのずと現在の社会保障改革でなすべきことが見えてくるはずです。
「72のルール」を再チェック!
「72 ÷ 金利 = 元本が倍になる年数」――。以前(2017年4月6日付)、このコラムで「72のルール」についてお話ししました。
戦後日本の歩みをみると、1956年に国際連合に加盟して国際社会に復帰してからバブル経済が弾ける91年まで約35年間の平均成長率は、おおよそ7%でした。72÷7は10年。10年で2倍になって、その次の10年でまた2倍になっていった時代が30~40年続いたわけです。
100万円が200万円に、次の10年で400万円、その次の10年で800万円になったわけです。このような高金利の時代は、預金や保険でお金を増やすことが可能でした。
ところがご承知のとおり、今、金利はほぼゼロです。たとえば、毎月コツコツと1万円を積み重ねても年間で12万円、10年で120万円にしかなりません。つまり、ほとんど利息が付かないので、お金が増えないわけです。
要するに、「72のルール」からわかることは、保険自体に貯蓄機能はなく、これまで貯蓄機能と考えられてきたものは、じつは金利の機能だったというわけです。ですから、ゼロ金利、マイナス金利の時代には保険は本来の保障機能だけで考える、つまり「掛け捨て」という保険本来のカタチに戻ることが要請されているのです。
All supporting allの世界へ
社会保障も保険の原理を使っているので、本来は「掛け捨て」です。よく日本では社会保障が破たんする、という意見が聞かれます。特に年金についてはそうです。曰く、昔は若者10人以上で1人の高齢者を支えていたのに、いまや1人が1人を支える「肩車」の時代に向かっている。このような仕組みが持つはずがない、というわけです。
このような考え方は広く浸透しているようですが、じつは欧米の先進国にはほとんど見られない、特異な考え方です。なぜでしょうか――。
わが国では、Young supporting Old、つまり「若者が高齢者の面倒を見るのは当たり前だ」という考え方が強いのに対して、他の先進国ではAll supporting all、つまり年齢フリーで全員が社会を支え、困っているみんな、たとえばシングルマザーを支えようという考え方に変わっているからです。
若者を含め、働いている人から所得税でお金を集め、住民票で誕生日をチェックして高齢者パスを配るというイメージです。しかし、みんなからお金を集めようとすれば、所得税ではなく、消費税に移行するしかありません。
なお、マクロで考えれば「所得≒消費」ですから、たいした違いはありませんし、また困っている人を特定しようとすれば、マイナンバーを整備するしかありません。
つまり、少子高齢化とは、所得税と住民票で社会が回っていた段階から、消費税とマイナンバーが社会のインフラにならなければ、社会が回らないパラダイムシフトのことを指しているのです。
そして、これは少子高齢化が先に進んだ欧州が20年も前に達成したことに他ならないのです。だからこそ、「税と社会保障は一体で改革しなければならない」と世界中でいわれているのです。
「All supporting all」の世界を前提とすれば、年金が破たんするはずがないこともまたわかりますね。年金破たん論はYoung supporting Oldの考え方に立脚しているのですから。(出口治明)