All supporting allの世界へ
社会保障も保険の原理を使っているので、本来は「掛け捨て」です。よく日本では社会保障が破たんする、という意見が聞かれます。特に年金についてはそうです。曰く、昔は若者10人以上で1人の高齢者を支えていたのに、いまや1人が1人を支える「肩車」の時代に向かっている。このような仕組みが持つはずがない、というわけです。
このような考え方は広く浸透しているようですが、じつは欧米の先進国にはほとんど見られない、特異な考え方です。なぜでしょうか――。
わが国では、Young supporting Old、つまり「若者が高齢者の面倒を見るのは当たり前だ」という考え方が強いのに対して、他の先進国ではAll supporting all、つまり年齢フリーで全員が社会を支え、困っているみんな、たとえばシングルマザーを支えようという考え方に変わっているからです。
若者を含め、働いている人から所得税でお金を集め、住民票で誕生日をチェックして高齢者パスを配るというイメージです。しかし、みんなからお金を集めようとすれば、所得税ではなく、消費税に移行するしかありません。
なお、マクロで考えれば「所得≒消費」ですから、たいした違いはありませんし、また困っている人を特定しようとすれば、マイナンバーを整備するしかありません。
つまり、少子高齢化とは、所得税と住民票で社会が回っていた段階から、消費税とマイナンバーが社会のインフラにならなければ、社会が回らないパラダイムシフトのことを指しているのです。
そして、これは少子高齢化が先に進んだ欧州が20年も前に達成したことに他ならないのです。だからこそ、「税と社会保障は一体で改革しなければならない」と世界中でいわれているのです。
「All supporting all」の世界を前提とすれば、年金が破たんするはずがないこともまたわかりますね。年金破たん論はYoung supporting Oldの考え方に立脚しているのですから。(出口治明)