所得税の「年収850万円増税」について、賛否両論が寄せられているネットユーザーとは逆に、新聞各紙は批判的な論調を展開している。
日本経済新聞の2017年12月15日付の社説は、「所得の高い層の負担を、際限なく増やしていけば経済の活力をそぐ恐れもある。また、サラリーマンに比べて遅れている自営業者の所得把握などの努力も必要だ」と、消費活動への影響を心配した。
その点は、読売新聞(同日の社説)も同様。「『取りやすいところから取る』安易な手法に終始した」としたうえで、「働き盛りの中高年が中心の高所得層への増税は、勤労意欲を阻害しかねない。所得税は、収入がガラス張りの会社員と、自営業者などとの公平性の確保が問題視される」と、厳しく批判した。
赤旗と産経が「企業の内部留保」批判で足並みそろう
毎日新聞の社説(12月16日付)は、年収850万円よりもっと高所得層のほうが得をする矛盾点を指摘した。
「高所得層に有利な所得控除という枠組みは温存し、矛盾も抱える。基礎控除は高所得者の控除を減らす仕組みも入れるが、対象は年収2400万円超と限定的だ。年収2000万円の自営業者は減税になり、再分配に逆行する」
ところが、批判的な論調が多いなか、唯一好意的なのが朝日新聞(15日付の社説)だ。「納税者に丁寧に説明すべきだ」とクギを刺したうえでこう述べた。
「年収850万円を超える230万人、給与所得者の4%で負担が増し、一方、フリーランスなどで働く人は減税となる。給与所得控除が適用されるかどうかで生じる不公平さを小さくし、所得税による再分配を強めるというなら、方向性は理解できる」
「労働者の味方」共産党はどうか――。機関誌「しんぶん赤旗」の「主張」(16日付)では、一般紙の社説が触れない視点を持ち出した。企業の貯金にあたる「内部留保」だ。
「大企業は大もうけを上げ、全体で400兆円を超すほど巨額な内部留保をため込んでいる。一部をとり崩すだけでも、労働者の十分な賃上げは可能だ。法人税割引の見返りがなければ賃上げをしない大企業の態度こそ本末転倒だ」
そして、850万円増税を「本来手を着けるべき富裕層への優遇措置は温存されたままだ」と批判した。
おもしろいことに、全国紙で唯一「内部留保」に触れたのが、共産党と対極にある産経新聞の「主張」(16日付)だ。
「高収益の企業が内部留保をため込む傾向に歯止めをかけ、積極的な賃上げと投資拡大で着実な脱デフレにつなげてもらいたい」
と訴えた。