社長も社長なら社員も社員? 「数字」に執着しない中小企業のなぜ(大関暁夫)

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   久しぶりに銀行時代の同期たちと、お酒を飲みながら語らいを共有する時間を得ました。総勢7人。銀行を自主的に辞めた私以外の6人は、すでに銀行を離れて、取引先企業でそれぞれ別々の業種で活躍しています。

   「銀行から中堅、中小企業に移って面食らっていることは何か」という話で、まっ先に皆の意見が一致したのが「社長が超ワンマン経営であること」でした。これについては、私の想像に難くないところではあったのですが、もうひとつ意外な点で6人が同意したことがありました。それは、「社員が不思議なぐらい目標達成に向けてがんばらないこと」「目標や計画で示された数字に対して、あまりに淡白なこと」だったのです。

  • 目標は立てるんだけど……
    目標は立てるんだけど……
  • 目標は立てるんだけど……

目標未達成でも全然平気って......

   集まったメンバーの中では最も早くに銀行を離れ、取引先での勤務歴が既に5年を超えたS君が口火を切りました。

「銀行ってなんだかんだ言っても、目標を達成するために最後は火事場のバカ力的にがんばってなんとかしちゃうでしょ。たとえば半期6か月の目標期間で、最後1か月の追い込みにはめっぽう強いって言うか。期末が近くなると言われなくとも皆、自然とお尻に火が灯くみたいな。それでなんとか形をつくることの連続。中小企業の社員には、それがほとんどない。ダメならダメなまんま。それで全然平気。これはカルチャーショックでした」

   この話には、他の5人全員が即座に同意しました。

   S君の勤務先に比べると規模的に小さい企業に勤める他の同期からは、「うちなんかハナから目標なんて絵に描いた餅」とか、「指導的立場の管理者に数字に対する執着心がまったくない」等々口々に自社の実態が語られ、中小企業の悲惨な目標・実績管理の現実が明らかになったのです。

   銀行マンに限らずですが、私が知る限り大半の大手企業の社員たちは、目標や計画に対する意識も達成意欲もあるように思います。では、なぜ大企業でできていることが中小企業ではできてないのでしょうか――。

   社員の能力とか資質の問題? いや、そういうことではない何かがあるに違いないと私は思ったので、皆にその手の質問をぶつけてみました。

「最後は社長がなんとかする」だろう......

   皆から出された意見を、項目別に分けて列挙すると次のようになります。

●目標や計画の設定に関して

「そもそも計画の数字づくりが、社長の希望的観測中心で詰が甘い」
「どう考えても達成できそうにない数字が掲げられている」
「目標数字はあっても、いかにそれを達成させるかという戦略的な議論が抜け落ちている」

●目標達成に対する責任感について

「結局、最後は社長が何とかするだろう的な、他力本願な感じ」
「他の社員からも達成意欲が感じられない、緊張感や刺激に乏しい風土」
「そもそも管理者のミッションが不明確で、目標管理に対する意識が希薄」

●モチベーションと危機感について

「目標達成に対する正当な評価と見返りが明確ではない」
「人事評価が目標の達否に依らず、社長の個人的な感覚に依るところが大きい」
「目標未達の場合でも評価に大きな影響はなく、未達に対する恐怖心が足りない」

   その場は酒の席でもあり、上記のような意見がランダムかつ五月雨式に出されただけで終わりましたが、私は職業柄、この問題がとても気になってしまいました。

必要なのはルールづくり 「組織的運営」を整備する

   そこで、目標達成意識の欠如という中小企業にありがちな問題の解決策として、彼らがあげた問題点をどこから、どの順番で手をつけていくべきなのか、メモ書きを元に翌日ひとりで考えてみました。

   ヒントとして使ったのは、「マッキンゼーの7S」と言われるフレームワークです。

   会社組織運営をモレ・ダブリのない7つの要素で分析し、どこからいかに改善を進めるかを検討する際に役立つツールです。7Sは、ハードの3S「戦略(Strategy)」「組織(Structure)」「システム(System)」とソフトの4S「スキル(Skill)」「人材(Staff)」「スタイル(Style)」「価値観(Shared Value)」からなり、すぐに変更が可能なものがハードの3Sであり、変革に時間を要するものがソフトの4Sとされます。

   一般的に改善策は、ハードの3Sから着手し時間をかけてソフトの4Sにまで変革を及ぼしていくのが常套です。

   私の同期たちが悩む会社に蔓延する目標達成意識の欠如に関する発言を見渡して、これをあてはめてみると、まずやるべきはハードの3Sの整備です。

   具体的には、「システム」にあたる実績に対する評価制度を明確に整備し、頑張った人が報われて、そうでない人は減俸のリスクを負うような仕組みをつくることがスタートでしょう。

   同時に、それをオーナーの勝手にさせず、ルールに則ってしっかりと運用する「組織」運営の整備は不可欠で、併せて納得性の高い「戦略」をつくって目標に対する現実味を経営と社員が共有する必要があるのです。

   これらすぐに変革のできるハードの3Sを、とにかく愚直に続け定着させることが肝要です。その過程で必要な「人材」教育や目標管理「スキル」などのソフトの4S要素を、実践的に付加していき、最終的に目標を達成させる「スタイル」を確立させ、組織としての「価値観」として定着させる、という流れなのではないかと考えました。

   とりあえず時期を見て、本件の言いだしっぺS君の会社を訪ねて、雑談がてらに話してみようと思います。もちろん中小組織が理論どおりには一筋縄でいかないことは、百も承知のうえですが、慣れない組織で苦戦する同期たちのお役に少しでも立てればと思っています。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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