政府の「デフレ脱却」宣言は近い?
とはいえ、安倍首相の携帯電話料金の引き下げ検討指示に対して、黒田総裁は当時、「消費者の選択の余地を拡大し、実質所得を増やすことは、長い目でみて、物価を好循環の下で2%に向けて引き上げていく面でもプラスになる」と支持する発言をしている。
ところが、その効果はまったく現れず、黒田総裁は消費者物価の2%上昇の達成時期の先送りを繰り返し、現在は「2019年頃になる可能性が高い」と言う。こうなると、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」ではないだろうが、藁をもつかむ思いで「携帯電話料金の引き下げ悪者論」を展開せざるを得なかったのかもしれない。
ただ、携帯電話の料金引き下げとともに、黒田総裁が消費者物価の上昇しない理由としたのが、スーパーなどの値下げ合戦とインターネット通販の普及だ。消費者が低価格を選択していることを端的に表す「スーパーなどの値下げ合戦とインターネット通販の普及」が消費者物価上昇の阻害要因になっているのであれば、それは取りも直さず「デフレ経済からの脱却が遠い」ことを示している。
黒田総裁が目指す消費者物価2%上昇が、デフレ経済からの脱却からの象徴だとすれば、その達成時期を何度も先送りしていること自体が、目標そのものに無理があることの証左であろう。
折しも、国民総生産(GDP)が7四半期連続で前期比プラス成長となり、2019年1月には戦後最長で73カ月続いた「いざなみ景気」を追い越す可能性が出てきた。これを受けて、政府では黒田総裁のいう「消費者物価の2%上昇」の目標達成をかなぐり捨てても、「デフレ脱却」を宣言すべきとの声まで出はじめている。
黒田総裁が目指したものは、いったい何だったのだろう。(鷲尾香一)