化粧品関係のクレーム処理を担当するオペレーターです。この仕事に就いてから、まだ半年ですが、正直苦痛です。クレームの原因などはすぐにはわかりませんから、基本的には商品を送っていただくようお話しするのですが、電話の向こうでお客様が鬼の形相で怒っていることは伝わってきますし、その場で事態を究明するよう迫ってくることが多くあります。先輩などは「そのうち慣れてくる」「感情的になっちゃダメ。事務的でいいのよ」「マニュアル通りに進めれば大丈夫」というのですが、気が重たくなるばかり。江上さんはお客様のクレームにどう対応してきましたか?
私も経験がありますね。
まず若い頃は喧嘩腰だった。これはいけない。
「暴言」はテープをとって警察へ
大阪の支店にいた頃、ヤクザが宝くじの束を持って来て「これを調べろ」と私に要求した。
私は「お客様に調べていただくことになっています」と突き返した。
「てめぇ」と脅してくる。私はひるまなかった。来るなら来い!
するとその時、もっと怖いヤクザが来て「おい!俺も自分で調べているんだ。てめぇも自分で調べろ」と一喝。
「すみません」と、文句を言っていたヤクザはすごすごと退散していった。怒ってくれたヤクザには礼を言ったけどね。
こんな調子で、私の若い頃は、クレーマーに対しては強気だった。
しかし、今では「お客様は神様」が徹底し過ぎて、ちょっとお客様が図に乗っている気がする。なかには、土下座させたり、金品を要求したりね。
これは支店長になってからだけど、一橋大学出身の、早稲田大学のある教授が「貸金庫が借りられなかった」と文句を言ってきた。なんでも定期預金が一定額ないのでお断りしたら、納得がいかないとガンガン文句を言って来たらしい。部下の行員が困り果て「支店長、一緒に行ってください」と頼んできた。
私は部下と一緒にその教授の研究室に行った。彼は、私と部下を研究室に閉じ込め、如何に自分が優れているか、そんな人間に貸金庫を貸さないなんてどういうことだと、繰り返し愚痴り、怒鳴り、終わることがない。延々、5時間から6時間......
私は、じっと沈黙を守ったね。もう切れそうになって殴ってやろうかと思ったが、「お客様は神さま、くそっ、こんなやつ、神様でもなんでもない。バカ様だ」と腹の中は煮えくり返っていたけど、決して「貸金庫を貸します」とは言わなかった。相手は、とうとう疲れ果てて私たちを解放してくれた。
ヤクザや総会屋から融資を回収する際は、「殺す」的な脅しもあったけど、その時は「ニヤリ」としたね。そのまま警察に被害届を出して、逮捕してもらった。十数人を刑務所送りにしたね。恨まれていると思うけど。
クレーマーは「苦情を言う」のが趣味
クレーマーは、苦情を言うのが「趣味」。だから、絶対に屈したらダメ。土下座や金品を要求されたら、その場で警察に通報すればいい。彼らは逮捕されないと頭が冷えないから。
しかしクレームの中には経営に有効な情報もある。
ある大手の乳業会社はクレームを重視しなかったお陰で破綻の危機に陥ったことがあった。
クレームを経営者に直接報告し、クイックレスポンスできる体制構築はどの会社でも重要な経営課題だ。なんでもかんでも、クレーマー扱いすればいいというわけでもない。おかしいことを「おかしい」ときちんと指摘してくれるお客には耳を傾ける必要がある。
いずれにしても、クレーマーの中では「殺す」「死ね」などの暴言を吐く人もいる。そんなのはテープにとって警察に通報することだね。相手が名乗らないのなら無視したらいい。
あまりに酷いケースは、AI(人工知能)に対応させる時代がくるかもしれない。ロボットなら我慢強いから。でも、ロボットが学習して、キレたりする時代がくるかもね。
あまり気を重くしないこと。深刻に考えると、クレーマーのせいで自分が病気になってしまうよ。(江上剛)