貧困層の人々に融資を行い、事業運営をサポートして、自立と貧困からの脱出を目指すマイクロファイナンス。こうした社会的な意義と利潤の両方を追求する「インパクト投資」を掲げて、マイクロファイナンス・ファンドのマネジメントを行っている「ブルーオーチャード・ファイナンス」(スイス・ジュネーブ)のピーター・ファンコーニ会長(Chairman)が来日した。
日本ではまだまだなじみが薄い「マイクロファイナンス」の取り組みや今後の活動などを聞いた。
社会支援ができて、リターンも狙える「一挙両得」のファンド
―― ブルーオーチャード・ファイナンスの取り組みについて教えてください。
ピーター・ファンコーニ氏「ブルーオーチャード・ファイナンスは、マイクロファイナンス機関(MFI)への資金調達案件を専門的に手がけるマネジメント会社です。
マイクロファイナンスとは、無担保の少額融資(ローン)のことで、貧しい人々に小口の融資や貯蓄などのサービスを提供し、それを零細事業の運営に役立て、自立し、貧困から脱出することを目指す金融サービスです。ビジネスの仕組みとしては、当社が世界中の、さまざまな投資家からファンドを集め、その資金をマイクロファイナンス機関(MFI)に出資。MFIが地元の人々に貸し付け、返済や事業のアドバイスを行っています」
―― どのような経緯で会社設立されたのですか。
ピーター・ファンコーニ氏「マイクロファイナンスという仕組み自体は、約30年前に、ムハマド・ユヌス氏(2006年ノーベル平和賞受賞)によってつくられました。その後、2001年に国連の主導によって当社が設立され、マイクロファイナンスを商業化した初の民間会社となりました。
MFIは、それまでは資金調達の大部分を寄付金、国際機関などからの援助、国内金融機関からの借入に依存してきましたが、当社が行っているファンドでの資金調達は、世界中の投資家から資金を集めることができ、持続的に多くの人々に融資することが可能です。
現在、四大陸70か国に投資しており、これまでに融資を行った数は4000万人に到達する勢いです。これは、実施したマイクロファイナンスのローン数としては世界最多です」
市場規模はわずか1兆140億ドル これからが本番だ!
―― 「インパクト投資」とは、どのようなものですか。
ピーター・ファンコーニ氏「インパクト投資は、経済的な利益を追求すると同時に、貧困や環境などの社会的な課題に対して解決を図るという投資です。
似たような概念に、ESG投資(Environment=環境、Social=社会、Governance=企業統治に配慮している企業を重視、選別して行う投資)やマイクロファイナンスなどがありますが、ESG投資の中に、直接的に投資する分野としてインパクト投資が含まれ、さらにその中に個人向け融資としてマイクロファイナンスが含まれます。
現在、世界の総投資額が212兆ドルとされる中で、インパクト投資への投資は1兆140億ドルと、全体のわずか0.04%にとどまっています。国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs=Sustainable Development Goals)に照らすと、年間2.5兆ドルの投資がさらに必要とされており、ニーズとの投資ギャップはいまだ大きい状況にあります」
―― 現在、運用しているファンドは?
ピーター・ファンコーニ氏「当社は、現在16のグローバルファンドを持っています。その中には、オバマファンドやG7天候ファンド、COP23パリ協定をフォローするファンドなどがあります。
また、2001年に設定した当社の旗艦ファンドである『ブルーオーチャード・マイクロファイナンス・ファンド』は約17年間運用し、現在12億ドルの資産残高となり、平均の年間リターンは4.3%となっています。2016年9月には、日本の投資家向けに『日ASEAN女性起業支援基金』を設定しました。これは主に東南アジアの貧しい女性を融資対象にしたファンドです」
―― 日本の投資家向けファンドの設定から1年経ちました。融資や運用の状況はいかがでしょう。
ピーター・ファンコーニ氏「『日ASEAN女性起業支援基金』は、この1年で32万人に計1億2000万ドルの融資を行い、その90%が女性です。世界銀行の考え方に、1人に融資すると、その家族5人に影響を与えるというデータがありますので、1年間で150万人に経済的安心を与えたと考えるとすばらしい成果だと考えています。期待していたよりも早いペースで達成できており、このファンドの主要な機関投資家である住友生命や国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)などにもよい報告をすることができました。
日本政府も女性の起業支援や、商業的なファンドについて積極的ですので、こうした方向性に合ったファンドだと言えます。また、このファンドは、日本では初のマイクロファイナンス・ファンドですが、他国からもこの取り組みが関心を持たれており、ロールモデルにしたいといったような要望もあがってきています」
アカデミーを通じて、インパクト投資への理解深める
―― 日本で新しいファンドを立ち上げるという予定はありますか。
ピーター・ファンコーニ氏「私たちの取り組みについて興味を持っていただいている投資家は多くいます。そういった投資家には、既存のファンドに投資していただくか、新しいファンドを立ち上げて投資してもらうかですので、新しいファンドの立ち上げも構想にあります。
移民問題や気候変動などによって、貧しい人々の融資ニーズはたくさんありますので、私たちもより多くの資金を募りたいという思いはあります。そのためには、欧米や日本のような先進国の皆さんに、マイクロファイナンス・ファンドが社会問題の支援もでき、リターンも狙えるといった点についてもっと理解していただきたいと思っています」
―― 今後、注力する取り組みにはどのようなことがありますか。
ピーター・ファンコーニ氏「私たちの使命は、投資家の皆さんや国民の皆さんに、マイクロファイナンスとは何か、マイクロファイナンスの影響は何かについて、もっと知っていただくことだと思っています。マイクロファイナンスの仕組みを、より公にして透明性を高めることができれば、あとは皆さん自身でどう行動するかを決めることができます。
当社が、現在力をいれている取り組みとしては、人々がマイクロファイナンスやインパクト投資について学んでいただける『ブルーオーチャード・アカデミー』があります。若い世代の中には、マイクロファイナンスやインパクト投資に興味を抱く人々も多くなってきています。アカデミーは、学生や学術研究者、インパクト投資分野に関することを学びたい人々が、専門知識を学び、その後のリサーチや仕事などで活かしていくことを目的としています。私たちがフォーラムやイベント、講演会などに参加させていただきながら、大学などの教育機関や調査会社などとも協力して、専門知識を共有していきたいと思っています。また、調査やインターンシップなどの機会も提供していきます」
(インタビュー 戸川明美 2017年11月16日)
【プロフィール】
ピーター・ファンコーニ氏
ブルーオーチャード・ファイナンス会長。プライスウォーターハウスクーパース(PwC)などを経て、Harcourt InvestmentCEO、ヴェオントベル・プライベート・バンクCEOを経験し、現職。現在、スイスにおけるドイツ銀行副会長、Graub?ndner Kantonalbank(GKB)会長、ROKPA International Foundation社長を兼任。