この時期の女性ファッション誌で目立つのは、「クリスマスに買ってもらいたいジュエリー、おねだり特集」だ。平均的な20代前半の女子が読む「CanCam」や、真面目なOL御用達の「WITH」や「美人百花」などをみると、まずティファニーの特集がバーンとあって、その後に少し「格」が落ちるらしいAGATHA(アガサ)とか、AHKAH(アーカー)とか、canal4℃(カナルヨンドシー)などのアクセサリーがズラっと並んでいる。
が、私はけっこう疑問に思っている。みんな、そんなに「TIFFANY(ティファニー)」が欲しいのだろうか。
ティファニーブルーは恐ろしくキレイだけど......
はじめに言っておきたいが、私はティファニーなるブランドを悪く言いたいわけでは決してないし、私の母は数年前、親戚の結婚祝いに、ティファニー製のそれなりに高価なジュエリーをプレゼントしていた。あのときの、お店で感じた高貴な雰囲気は今も忘れられないし、いわゆる「ティファニーブルー」は恐ろしく美しいとも思う。
だから、その安定した魅力を否定したい気持ちは毛頭ないが、単純に疑問なのだ。周りに、ティファニーファンの女子がまったくもっていないからである。
「ティファニーのオープンハートって、バブルのイメージだよね」と言うのは、アラサー世代の男友達。ティファニーを皆が欲していた時代=バブル時代との認識らしい。
「90年代の学生って、こぞって頑張ってバイトして、シルバー製のオープンハートを買ってたんだよね。そういう印象があるから、社会人になってティファニーはちょっと、彼女に失礼じゃないかとすら思う」
みたいな声もあった(Byアラサー男子)。
一方の女子からは、
「今どき20代後半以上の彼女にティファニーって微妙じゃない? ヨンドシーとかサマンサティアラなんかもらってもセンスを疑うけど。大学生じゃないんだから」
とか、
「やっぱり憧れはヴァンクリ(Van Cleef & Arpels)だよね。次にCartier(カルティエ)かな。結婚指輪でよく見るし。ティファニーはちょっと可愛すぎる」
という声が多いのである。
キャバ嬢の頂点にいる歌舞伎町の愛沢えみりさんは、ヴァンクリやHarry Winston(ハリーウィンストン)を愛用している。ホステスさんには、カルティエやCHANEL(シャネル)が人気らしい。
Xmasケーキとティファニーは「25」まで?
そういう話を聞いて、私は思う。
ティファニーの神通力は1990年代以降、少しずつ落ちてきているのではないか――。まだまだファンはいるものの、かつてのように「みんなが欲しがるティファニー」はもう、幻想なのかもしれない。
フリマアプリのメルカリで「ティファニー」を検索すると、5000円から1万円くらいまでの低価格ユーズド品がたくさん出てくる。かつて夢中で欲したティファニーを、今や手放したい人たちがこれだけいるのか、と驚かされる。しかも、出品するには「5000円」が売れ筋価格だそうだ。叩き売りされるティファニーを見ると、やや切ない気さえしてくる。
いまやジュエリー市場は、ヴァンクリのような100万円単位の超高級ブランド品と、1000円台で買えるプチプラ(プチ・プライス、廉価品)に二極化しているのではないだろうか。みんなが「一億総中流」の波に乗ってティファニーを買い求めた時代が終わり、「中間」がすっぽり抜け落ちたのである。
平均的なOLが読むとされる女性誌には、今宵もティファニーが大きな広告を載せている。その資金力はどこから来るのだろうと思うほど、少なくとも私の周りには、ティファニーへの憧れを募らせる女性がいない。
いったい、今の時代、誰がティファニーを買い支えているのだろう。やはりインバウンドのお客さんだろうか......と、Xmasにジュエリーなどもらう予定もない自分は、ひとり、パソコンの前で思いを巡らせているのであった。(北条かや)