神戸製鋼所、日産自動車に端を発した大企業一連の不祥事は、東レ、三菱マテリアルなどの名だたる有名企業に連鎖し、拡大の一途をたどっている印象です。
なぜ、こうも日本を代表する企業で不祥事が相次いでいるのでしょう。
部門、子会社の不祥事 中小企業には「対岸の火事」か?
これらの不祥事がらみの謝罪会見を聞いていると、多くに共通している事柄として「製造現場の実態を、本社で把握しきれていなかった」「独立性を持たせた関連会社、子会社がやったことで、親会社の管理が不十分だった」等々の発言が目につきます。
要するに大企業の宿命として、組織が大きくなっていく過程において部門に独立性を持たせたり、あるいは別会社化したりすることで、効率化を狙った組織戦略が結果的に裏目に出た。そんな印象で捉えられる不祥事だったと言えるのではないかと思っています。
こういった「独立性の弊害」とも言える事象は、果たして大企業特有の問題なのでしょうか――。
数年前のことです。大手企業を主な取引先とするIT機器部品製造の中堅企業T社のH社長から、こんな相談を受けたことがあります。
「うちの業界は生き馬の目を抜くような世界で、日進月歩で前に進む技術革新についていかないと置いてかれかねせん。そのためには、常に新しいビジネスにつながる技術開発や製品開発に取り組むことが必須です。しかし、従業員が150人を超え、各部門の長に権限を委譲して独立採算に近い管理に移行した今でも、新規ビジネスを先導しているのは社長の私であり、部長クラスの幹部社員が主体性を持って新たなビジネスやそれにつながる新技術や新製品の開発に積極的に取り組む姿勢が、なかなか生まれてこないのです」
幹部社員が自発的に新規事業展開に取り組まない原因を考えてもらうため、H社長が私とさまざまなキャッチボールをする中で、たどり着いた結論は次のようなものでした。
部長同士は協力的か!?
・ 社長自身が成功してきた方法がベストだという思いから、以前から部長たちには自分のやり方をベースに置いて何事も指導してきた。
・ 部長たちの成長のために各人に責任を持たせ担当部門の仕事を任せてきたつもりだったが、かえって社長に怒られないようにと管理スパンの業績を伸ばすことにばかりとらわれて、部長同士が協力しなくなってしまった。
・ 部長たちが自発的に考えなくなってしまっているのは、各部門の独立採算管理を優先したがために、部長たちの頭から「会社として」という考え方が後退してしまったからであるように感じられる。
つまりは、部門に独立性を持たせることの裏にあった想定外の弊害の存在への気づきだったのです。
そこで、H社長は即座に次のような具体策、すなわち部門長たちに「自分で前向きな施策を考えさせる」こと、そして「会社の将来のために、部門の枠を越えて皆で協力して取り組ませる」ことを重視した取り組みを指示したのです。
「独立性の弊害」の具体的な予防策
具体的には、
各部長と1対1で定期的に面談して、業界の変革とその対応について各人がどのような見解をもっているのかについて、関心を持って聞く。
理想の組織やトップマネジメント・チームのあり方などについて、社長の考えを幹部会議やフリートークの場などを設けて、継続的に発信する。
激しく変化する業界の流れを踏まえた中期経営計画の検討・策定を目的とした部長プロジェクトを発足させ、共同で取り組ませる。
H社長の発案による新プロジェクトは順調にすすんで、半年後には事業の変革に向けた部長方の意識や行動は徐々に変化を見せてきたと言います。
「部長たちが他のメンバーと協力して、会社としての事業の成長に向けて取り組んでいる姿が感じられるようになり、本当に良かったと思っています。私はこれまで単純に各部門長に独立性と責任をセットで持たせさえすれば、幹部社員の自立心と競争心を育て最終的に組織の効率運営と成長につながるものと思っていました。しかし独立性の弊害に先回りして手を打たないと、独立性組織は容易にセクショナリズムに陥り、上下左右のコミュニケーションが激減し部門がブラックボックス化して、保身の塊になりやすいのだということがよく分かりました」
不祥事続きの日本を代表する大企業の経営者の皆さんにも、ぜひとも聞かせてさしあげたい「独立性の弊害」予防のお話ではないでしょうか。(大関暁夫)