神戸製鋼の品質偽装に引き続き、日産自動車、スバル、東レといった名だたる製造業においても続々と品質偽装が発覚している。特に東レは日本経済団体連合会の現職の会長、榊原定征氏の出身企業であり、経団連自ら会員企業に調査を要請するまでの事態となった。
戦後日本を支えてきた製造業に大きな地殻変動が起きているのは間違いない。よく言われるように、それは日本のモノづくりの劣化なのだろうか――。
ムラ社会の終わりの始まり
一連の偽装問題に共通しているのは、それが組織ぐるみで、数十年という長期にわたって行われてきたという点だ。日産、スバルは30年前から、神戸製鋼に至っては40年前から慣習として行われていたという証言もあるから、少なくとも昨日今日の話ではないし一個人の責任でもない。
そういう意味では「日本のモノづくりが劣化した」のではなく、「もともと抱え込んでいた不祥事を隠し通せなくなった」というのが正しいだろう。
では、なぜ長年隠し続けてきたことが隠せなくなったのか。それは「終身雇用」という名の運命共同体であった企業が、良くも悪くも流動化しはじめているためだろう。
定年まで一つの会社に在籍するのなら、組織にとっての不祥事隠しに協力し、墓場まで秘密を持っていくのは合理的な選択だ。
かつて、「会社の生命は永遠です。その永遠のために私たちは奉仕すべきです」との遺書を残して投身自殺を遂げた企業戦士も実在したほどに、その絆は強烈なものだった(1979年、次期主力戦闘機選定におけるダグラス・グラマン事件に際し、当時の日商岩井担当常務が遺した遺書による)。
だが、途中で転職を考えていたり、中途で入社してきたりした人間にとっては、「秘密の共有サークル」への参加は何のメリットもないだけでなく、自身のキャリアにとって致命傷ともなりかねないリスクとなる。
21世紀の今、新卒で入社した日本人総合職であっても「組織の永遠の生命のためには汚いことでも何でもします」と言い切れる人間が果たしてどれぐらいいるだろうか。
社員の流動化が、真のグローバル化への一歩
さらに、企業のグローバル化もこの流れを後押ししている。
当たり前だが、他国の人材は就職を「一企業と一心同体の運命共同体に参加する行為」などとは夢にも思っていないから、秘密の共有サークルに誘われても首を縦にふることはないだろう。
ちなみに、2011年にオリンパスの過去の企業買収に伴う損失隠し問題を告発したのは、当時の経営トップであるイギリス人社長だった。
とはいえ、筆者はこうした過去の不祥事の累積が露見するのは、素晴らしいことだと前向きに評価している。
それは労働市場が緩やかに流動化し、組織が本当の意味でのグローバル企業に生まれ変わるきっかけとなりうるからだ。
社内で英語を公用語化したり、外国籍の幹部をヘッドハンティングしたりするよりも、「社員の誰がいつライバル企業に転職してもおかしくないという前提に立って業務プロセスやコンプライアンスを見直すこと」のほうが、グローバル企業への有効な近道だというのが筆者のスタンスだ。(城繁幸)