生命保険では、昔から貯蓄機能を訴求する商品が多く見られます。 その背景には人々の寿命が延びて高齢化したことで、消費者が万が一の死亡時の保険よりも、長生きリスクを重く捉えて、先々の生活費に充てられるようにと、「貯蓄性」を重視するようになったことがあるのでしょう。
安くない手数料
「貯蓄機能」を訴求する保険商品の場合、保険料を毎月支払っている消費者は、長く支払うほどたくさん貯まっていく、よい商品に思っているようでとても不思議です。多くの人がそう思っているので、それゆえに貯蓄型の保険商品は人気があるのでしょう。
また、保険商品を売る側も、貯蓄性をアピールすることで、商品が売りやすくなります。そうすることで、毎月支払われる保険料がムダに使われていないように見えるからです。
しかし、正直に言えば、保険の貯蓄機能の実体は「金利機能」です。「72のルール」というものがあります。「72÷(長期)金利=元本が倍になる年数」という公式です。戦後の日本は高度成長のおかげで、平均成長率7%の時代が30年も40年も続きました。ここで仮に成長率≒長期金利と置いてみましょう。
「72÷7(%)≒10年」ですから、10年で倍、20年で4倍、30年で8倍となる計算です。つまり、一時払保険で考えれば、100万円払い込めば、10年で200万円、20年で400万円、30年で800万円になったのです。そうであれば、仮に手数料を半分の50万円としても、10年で100万円、20年で200万円、30年で400万円となるので、お客さまは4倍に増えたと喜んだのです。
でも、金利が1%に下がると倍になるのに72年、0.1%だと720年、0.01%だと7,200年もかかります。つまり、ゼロ金利やマイナス金利の時代には、保険に「貯蓄機能」を期待することは物理的・数学的に不可能なのです。だから僕は、貯蓄型商品の代表である終身(死亡)保険をおすすめしないのです。
次に、手数料の問題があります。
たしかに毎月、コツコツ、一定の金額を納めていくと、満期が来ればそれなりのまとまったお金になります。たとえば、銀行の定期積金のような元本保証商品であれば、1万円を毎月積み立てると1年後には12万円に、わずかではありますが利息も付きます。
「貯蓄」という言葉から、保険商品にもそれと同じ機能があると思ってしまいがちですが、保険商品は違うのです。簡単に言うと、毎月1万円ずつ納めても、1年後には12万円にはなりません。以前にもお話ししましたが、生命保険料は、保険金や給付金などの支払いの財源となる「純保険料」(製造原価)と、保険会社が事業を営むうえで必要な費用に充てられる「付加保険料」の2つから成り立っています。
付加保険料は、いわば「手数料」。仮に毎月支払っている保険料のうち、付加保険料が1割、純保険料が9割とすると、毎月1万円の保険料を納めていても、実際の支払いや保険金の積み立てに充てられる費用は9000円にすぎないということになります。
つまり、1年間で10万8000円。銀行の定期預金よりも1万2000円も少ない計算になるのです。
保険は、多くの人が一部の人を支える仕組み
以上のことからわかるように、生命保険に「貯蓄機能がある」というのは、「単なる金利の機能」に過ぎません。
保険商品の本来の機能は、「保障」です。たとえば死亡保険では、自分が納めた保険料は自身が死ぬまで使われることはありません。その代わり、ほかの誰かが死んだときに、その保険料が使われるのです。
では、ご自身が死亡したときはどうなるのか――。それはあなた以外の誰かが納めた保険料が充当されるのです。
つまり、多くの人が一部の人を支える「相互扶助」の仕組み、それが保険なのです。だから保険には高いレバレッジが働くのです。
そのことが理解できれば、保険商品に貯蓄性はあまり重要ではないことがわかるはずです。特にゼロ金利やマイナス金利のもとではそうです。結論をいえば、保険商品は本来、「掛け捨て」なのです。そのほうが、毎月の保険料を抑えられます。
(出口治明)