「無知の知」わかります? 聞く耳持たない「独裁」社長が会社をダメにする(大関暁夫)

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   私が主宰するフォーラムの番外編として、経営セミナーを開催しました。我々のフォーラムのそもそもの主題がコミュニケーションであり、「経営者とコミュニケーション」をテーマに、複数の方にご登壇いただきました。

なかでも、元国連職員で国際企業コンサルタントのNさんのお話。欧米で学んできた上手な組織内コミュニケーション改善のポイントについてが、大変興味深いお話でした。

  • 社長!「無知の知」わかります? 
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「社員が知らないことを知っている」のが社長ではない!

   Nさんはまず、企業内コミュニケーションの健全性の判断方法として、以下のような手順説明から話し始めました。

   「社長が知っていること」「社長が知らないこと」と、「社員が知っていること」「社員が知らないこと」をそれぞれ縦軸、横軸に据えると、2×2のマトリクスができます。 すなわち、

A「社長も社員も知っていること」
B「社長は知っているが社員は知らないこと」
C「社員は知っているが社長は知らないこと」
D「社長も社員も知らないこと」

この4つの区分された領域ができ上がるわけです。

   Nさんが言うには、社内的に誰も知る余地のないD領域を除外すると、欧米に比べて日本のオーナー系中小企業経営者はB領域が大きすぎる傾向が強いのだと言います。

   すなわち、社長が持っている情報や社長の考えが、社員と共有されることなく社長のみが所有していてA領域が小さすぎるという関係になっているという、まぁよくあるワンマン、独裁、独りよがり、そんな状況にあるわけです。

   いわゆるビジョンの共有、経営方針の浸透といった部分に問題があると考えられるところではあります。

   そしてNさんが、B領域が大きくなりすぎる原因として、直接的には社長と社員の情報共有状況を表すA領域の小ささではあるものの、根本原因は「社長は知らないが社員は知っている」C領域の小ささにあると話していたのが、何より印象的でありました。

   「欧米の中小企業でもA領域だけを大きくすることは難しいのですが、日本に比べてC領域がそこそこの大きさで存在しているという特徴があります。すなわち日本のオーナー系中小企業では、「B>A>C」状態があまりに顕著なのです。

   これは、経営者が社員の勝手な行動を抑圧して、余計なことを考えさせずに自分のいいなりにさせている、というかなり独裁色の濃い経営です。私は、このことが日本特有のブラック企業を生んでいる元凶なのではないかと思うところでもあります。

キリスト教と「無神教」の違い

   Nさんは自身の海外経験から、欧米では多くの人の根っこにある宗教、特にキリスト教的な精神が、経営者に無意識のうちの「平等」や「相手の立場」というものの考え方を醸成させ、行き過ぎた独裁になることが少ないのではないのかと、推測しています。暴力的に独裁色が強くなりすぎないことで、社員の間に自主性が生まれCの「社員は知っているが社長は知らないこと」の領域も、ある程度の大きさで確保されるようになっているようだ、というわけです。

   とはいえ、Cの領域は大きければ大きいほどいいのかと言うと、それはまた違うようです。

   「C領域が大きくなりすぎるということは、社員の自由な情報活動や発想を経営者が容認しつつも、それに対する聞く耳を持たないからその領域が大きくなるばかり、という状況です。これだと社員の不満がたまるばかりで、離職率の上昇などになりがちなのです」

   では、どのような状態がいいのかというと、「新陳代謝のよい一定量のC領域をつくること」。すなわち、社員の自由な情報活動や発想を容認しつつそれを吸収しようとする姿勢を常に持ち続けることであるのだと言います。

   「じつは、これが日本のオーナー経営者には一番難しい部分なのです。日本人は元来、仏教をベースにしながらも基本は無神教であり、言ってみれば『信じるものは己のみ』という考え方が知らず知らずに根付いています。

   そこが欧米の経営者と大きく異なり、同じワンマン経営者でも、自分と社員の間に絶対的な格差をつけているのです。簡単に言うと、『正しいのは自分だけ』という、無意識の上から目線がCの領域を極限まで小さくしたり、あるいはC領域を無視して大きくしすぎたりしてしまうわけなのです」

社長は「自分の無知を自覚すること」からはじめよ!

   そうだとしたら、経営者はどのような意識をもって社員と接し、A、B、C領域のバランスをとったら良いのでしょうか。これに関してNさんが提示したヒントは、「無知の知」でした。

   ご存じ「『知らない』ということを自覚することが真理に至る最善の道である」とする、ギリシアの哲学者ソクラテスの考え方です。

   「経営者が自分の無知をさらけ出すことはプライドが許さないという側面があろうことは否定しませんが、あえて経営者が自身は万能ではなく、自分の無知を自覚することが会社も経営者としての自分も成長するために必要なことなのだ、と理解してほしいわけなのです。

   特に社員が知っていて自分が知らないことが存在することを認識し、それを知りたいと思うことがバランスのとれた組織内コミュニケーションをつくり、最終的には社員の成長や企業の発展につながるのです」

   なんとも目から鱗のお話でした。

   「うちの社員は意識が低い」と、Aの「社長も社員も知っていること」の領域の小ささをお嘆きの中小企業経営者は世に多いのですが、まずはC領域の「社員は知っているが社長は知らないこと」の存在を意識し、それを知ろうとすることから始めてみるのがいいのかもしれない、と思った次第です。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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