トヨタ自動車が、次世代タクシー「JPN TAXI(ジャパンタクシー)」が話題になっている。乗り降りしやすいフラットな低床とスライドドアを採用。観光客のほか、車いすの人や子どもから高齢者まで、さまざまな人に快適さを提供するタクシー専用車だ。
この次世代タクシーの発売に合わせて、もう一つ、タクシーに乗車すると必ず目にする、あるモノが開発された。それが......
「おもてなしの心」を表現するシートの生地を模索
シートカバーリース業を営むフクシン(千葉県市川市)は、JPN TAXIの発売に合わせて、繊維大手の帝人フロンティアと共同開発した、新しいタイプのシートカバーを導入した。
2017年10月23日に発売されたトヨタのJPN TAXIは、ボディーカラーには日本を象徴する色としての藍色「深藍(こいあい)」を取り入れ、来る2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催も見据えて、「日本の風景を変え、バリアフリーの街づくり、観光立国への貢献を目指す」(トヨタ)と、つくられた。
従来、タクシーでよく目にするシートカバーは「白」。しかし、今回は藍色のクルマの色に合わせて、日本の伝統的な和のイメージである深藍と、現在流行している杢調(もくちょう)柄を取り入れた「深藍杢調(こいあいもくちょう)生地」を完成させた。さらに、従来どおりの白いレース生地「手鞠柄レース生地」も開発。ラインアップに加えた。
完成したシートカバーは、業務用で、高い頻度の洗濯にも耐えられるよう、耐久性に配慮しているほか、三大汗臭(酢酸、アンモニア、イソ吉草酸)に対応した消臭機能も備えている。
新しい車両のシートは、高級感のある合皮だったため、そもそもシートカバーが必要なのか、といった議論もあった。しかし、フクシンはJPN TAXIが実現したい「おもてなしの心」を、シートカバーでどのように表現できるか、帝人フロンティアやデザイナーらとミーティングや話し合いを重ねた。
そして、できあがったのが伝統的な和装の「丹前(たんぜん)」と、現代的な杢調柄を組み合わせた生地。車両のイメージカラーである藍色からヒントを得て、採用が決まった。
生地のコンセプトが決まった後も、シートカバーの調整はギリギリまで続いた。フクシンにとっては、新しく取り扱う布で、伸び縮み具合もこれまでの布とまったく違ったため、車両の仕様が更新されるたびに装着しては修正を繰り返した。
結局、「シートカバーが完成したのは、車両の出発式の1営業日前だった」と、フクシンはいう。
シートカバーのリースで月2000万円を売り上げ
そもそも、東京のタクシーに布製のシートカバーが導入されたのは、浅草で布団商を営んでいたフクシン(1911年創業)が、1979年にタクシーのシートカバーリース業に参入したことに始まる。
それまで、東京近辺では企業広告付きのビニール製のシートカバーが主流だったが、あるタクシー会社から、当時大阪ですでに導入されていた布製のシートカバーと同様のものを作製できないかと打診されたことを機に、フクシンがビニール製のシートに代えて布製のシートカバーを導入。徐々に現在のリース方式の布製シートへと形を変えて、タクシー会社に提供するようになった。
現在、フクシンは東京の大手タクシー会社4社をはじめとした取引先に有し、「都内でのシートカバーのシェアは5割弱ほど」を占めるという。
フクシンは、タクシーのシートカバーを1台につき3セット用意し、毎週交換している。タクシー1台につきシートカバーのリース料が決められており、「シートカバーリースによる同社の売り上げは、月間2000万円、年間で2億5000万円弱となっている」という。
フクシンは現在、タクシーのシートカバーのほか、個人向けにはふとんのレンタルやクリーニング、法人向けには店舗や事業所の清掃やクリーニングなどを手がけており、タクシー向けシートの売り上げの割合は全体の約3割を占めている。
トヨタの次世代タクシーの導入は、東京を拠点とする大手タクシー会社から始まり、徐々に地方にも広がる見通し。全国ハイヤー・タクシー連合会の川鍋一朗会長(日本交通会長)は、「東京オリンピックまでに都内で3台に1台、約1万台を次世代タクシーに変え、オリンピックのロゴも入れたい」と話す。
次世代タクシーの普及にともない、新しいシートカバーがお目見えする日は近そうだ。(戸川明美)