離婚して以来、私の口癖は「お金がない、どうしよう」だった――。
結婚生活の維持にけっこうな金額をつぎ込んでしまったこともあるが、いくら稼いでもお金がなくなっていくような気がして、不安で夜も眠れなくなるのである。当時を知る友人に言わせると、「朝から晩まで仕事をして、貯金してもしても『不安だ』と嘆いていた」。そうなのだ。たくさん働いて原稿料をもらって、貯金してもしても「足りない」ような気がするのである。
「それは貧困妄想といって、うつの人に特有の症状ですね」
私は離婚直後からカウンセリングを受けていた医者にも、毎回のように「お金がなくなってしまうのが不安です」と訴えていた。
「それは『貧困妄想』といって、うつの人に特有の症状ですね」とアドバイスしてくれたのは、離婚して半年後に、いろいろとあって入院した先の主治医だった。
「うつ病の人には『誇大妄想』の逆の、『微小妄想』が現れることがあります。自分の状態を客観的な評価よりも小さく、小さく評価してしまうことですね」
ええっ。私の不安は、うつから来る「妄想」だったのか!? 「妄想」の2文字にショックを受けたが、入院中で時間はたっぷりあったので、いろいろ聞いてみることにした。
医師は続ける。
「微小妄想には、(1)心気妄想、(2)罪業妄想、(3)貧困妄想の3つがあります。(1)の心気妄想は、自分が重病にかかっていると思い込むこと。小さな痛みでも『ガンではないか』、など、心配しすぎる患者さんがおられます。
(2)の罪業妄想は、些細なミスや失敗でも、過剰に自己嫌悪に陥る妄想です。『周りに迷惑をかけてしまった、もう終わりだ』と嘆くような方ですね。
北条さんの場合はおそらく(3)の貧困妄想でしょう。実際には預貯金などがあるにもかかわらず、自分にはお金がない、貧困の底に突き落とされてしまうんじゃないか、と不安で仕方がない。周りが何を言っても、自分の心の中で起きている不安ですから、終わりがないんですね」
うむむむむ......