合意によって時効の完成を止められる!~時効の更新と完成猶予~(第3回)

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2. 合意による完成猶予

現行法の下では、当事者間の協議によって時効の完成を止める方法がありません。そのため、消滅時効の完成が間際に迫っている中で当事者の間で友好的な協議が続いているときでも、債権者は、時効の完成を阻止するためだけに裁判所へ訴訟を起こさざるを得ない場合があります。しかし、債務者からすれば、債権者との間で友好的に協議を続けている中でいきなり訴訟提起を受けるのは不快ですし、協議がこじれる原因にもなりかねません。当然、債権者にとっても、訴状を準備して裁判所に提出するという手間をかける必要があります。

そこで、改正民法は、権利についての協議を行う旨の合意が書面(又は電磁的記録)でされたときは、原則としてその合意があった時から1年を経過した時までの間、時効は完成しないものとしました(改正民法151条1項1号)。時効が完成しない期間は、原則1年間ですが、例外があり、その合意において当事者が協議を行う期間として1年未満の期間を定めた場合には、その期間が経過した時点までが時効が完成しない期間となります(つまり、この場合、時効が完成しない期間は1年未満となります。同項2号)。また、これらの期間が経過していない場合でも、また、当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6か月を経過した時のほうが早ければ、その時点(通知から6か月経過時)までが時効が完成しない期間となります(同項3号)。

さらに、時効の完成が猶予されている間に協議を行う旨の合意が再度された場合は、その合意の時から原則1年間(具体的には上述と同じ規律です)、時効の完成猶予期間が延長されることとなりますが、延長される期間は最長5年までとされています(同条2項)。

合意に時効の完成猶予の要件となっているのは、あくまで「『協議を行う旨』の合意」であり、債権が有効に存在することの合意ではありません。債権が有効に存在することを合意した場合は、債務者が権利を「承認」したことになり、その時から新たに時効の進行が始まる(時効が更新される)こととなります(改正民法152条1項)。

また、協議を行う旨の合意は、書面又は電磁的記録によって行う必要があり、口頭で約束しただけでは時効の完成猶予の効果は生じません。メールも電磁的記録の一種ですので、メールで合意をした場合も時効完成猶予となり得ますが、その内容には注意が必要です。たとえば、メールで「協議をすることに合意します」と明確に記載されていればよいですが、「○○の件(注:債権が生じた原因となった取引)について、ご相談させてください。」「○○の件に関しては、当方は支払義務はないと考えておりますが、認識が異なるようであればご連絡ください。」というようなやり取りの場合はどうでしょうか。どのようなレベルで合意がされていれば「協議を行う旨の合意」があったといえるかについては、今後の裁判例を待つ必要があります。

冒頭の設例では、現実には更に詳しい事実認定が必要となりますが、AさんとBさんはメロンの代金債務について協議することについてメール上で合意していますので、Bさんから返信をした時点から1年間は時効の完成が猶予されると考えることができます。

合意による時効の完成猶予は、書面又は電磁的記録が必要であり、また債務者に対して時効の利益を予め放棄させることと実質的には近いことから、債務者がこれに応じてくれるとは限りません。そのため、債権者の立場からすると、債務者から時効の完成猶予の合意を取り付けるのは必ずしも容易ではなく、現実問題としてこの制度がどの程度活用されるかは未知数な面があります。今後の実務の動向が注目されるところです。

民法の一部を改正する法律(債権法改正)について

法務省が、民法(債権法)改正の概要や関連資料を公表しています。
URL http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_001070000.html

たかぎ・ひろあき
西村あさひ法律事務所パートナー。学習院大学法科大学院特別招聘教授。2002年弁護士登録(第55期)。05年早稲田大学大学院アジア太平洋研究科非常勤講師。08年シカゴ大学ロー・スクール卒業(LL.M.)。08年〜09年ポール・ワイス・リフキンド・ワートン・ギャリソン法律事務所(ニューヨーク)に勤務。09年ニューヨーク州弁護士登録。09年〜13年法務省民事局参事官室出向(10〜13年法務省民事局商事課併任、14年会社法改正の立案などを担当)。著書に、「平成26年会社法改正と実務対応(改訂版)」(商事法務、編著、2015年)、「監査等委員会設置会社のフレームワークと運営実務----導入検討から制度設計・移行・実施まで」(商事法務、共著、2015年)、「改正会社法下における実務のポイント」(商事法務、共著、2016年)など、多数。
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