「期待してる」と、ハッキリ口しなさい!
ふたつ目は、チームがどんなピンチの時でも育成の心を優先し、目先の利益に惑わされないこと。
2016年のことですが、優勝争いをしている最中に大谷選手は指のマメを潰し、投手としてしばらく登板できなくなりました。この時、栗山監督は思い切って復帰を遅らせ約2か月にわたって打者に専念させたのです。
優勝争いの渦中にあるチームとしては1日も早くエースの復帰をと考えるのが普通ですが、監督はとにかく無理をさせず十分すぎるリハビリ期間を設けることが、最終的に本人のためになると考えたのでした。
栗山監督は常々「常に何が一番選手のためになるのかを考えて指揮をとっている」と言ってはばからないのです。
そしてもうひとつ、三つ目が選手を信じること。そして信じる気持ち、期待する気持ちを本人に直接伝えることです。
栗山監督はもう入団前から、「翔平なら必ずできる」を口癖のように、本人に対して、あるいは取材メディアを通じて公言し続けてきました。
それはまさに選手を信じることであり、それを本人に直接、間接を問わず伝わることで、達成に向けたモチベーションの向上につながるのです。大谷選手ほどのプレイヤーであっても、やはり上に立つ指導者から信頼され期待されることは、本人の達成意欲に大きな影響を及ぼしたに違いないと確信するところです。
いま中小企業は、業界問わず採用難、人材難に苦しんでいます。そのひとつの解決法としては、1人2役、1人3役をこなせるような「多能化スタッフ」の育成にあると思われます。
栗山監督の二刀流育成術を、企業の多能化策に引き直すなら、愚直な多能化努力を続けること、社員の成長を第一に考えて多能化に取り組むこと、そして社員の成長を信じて、口に出して期待感を伝えること、となるでしょう。
まさに世界に羽ばたかんとする「二刀流」大谷選手誕生の陰に、名将・栗山監督の多能化育成術あり。参考にされてみてはいかがでしょうか。(大関暁夫)