商工中金は何者か!? 「縦割り行政」が延命してきた制御不能の「暴走金融」(鷲尾香一)

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20年近く続いている「治外法権」

   今回の調査結果を受け、経済産業省出身の安達健祐社長が引責辞任に追い込まれた。しかし、問題の根源は危機対応融資にあるのではない。商工中金という政府系金融機関そのものにあるのだ。

   そもそも、商工中金という政府系金融機関は通商産業省(現経済産業省)所管のもと、旧商工組合中央金庫法に基づき政府や中小企業団体が出資する協同組織金融機関として設立され、それら所属団体に対する貸付け、債務保証などを業務としてきた。

   現在も主たる所管が中小企業庁であるように、経済産業省の関連機関である。自ずと、金融制度を管轄した旧大蔵省(現財務省)や金融機関を検査・監督する金融庁との間には距離感が生まれる。端的に言えば、「縦割り行政の弊害」から、商工中金を金融庁がコントロールするのが難しい状況があるということだ。

   それは、過去の経緯から見ても明らかだ。1990年終りから2000年初めにかけて、金融制度改革が花盛りとなり、民間金融機関が改革の大きな波に飲み込まれた。13行あった都市銀行は、合併・経営統合を繰り返し、現在のメガバンク3行と、りそなの4行に集約された。同じ政府系金融機関の農林中央金庫も農業の衰退と農家の後継者不足も影響し、その業容を大きく変化させた。

   こうした中にあって、商工中金だけが、唯一無傷で「治外法権」の中で生き延びてきている。

   確かに、設立当時の協同組合から2008年には株式会社化された。しかし、小泉純一郎元首相が進めた政府系金融機関の民営化の波は郵政を民営化したが、この波すら商工中金は乗り切ったのだ。

   かつて、「官業の民業圧迫」は郵貯の代名詞だった。しかし、それは融資手段を持たない郵貯においては、預金獲得競争を指していた。だが、低金利下の現在、預金獲得競争は姿を消し、融資競争がし烈になっている。そして、官業の民業圧迫はまさに商工中金によって行われている。

   重要なのは、不正の実態を明らかにすることではなく、不正を発生させるような環境や状況をどのように改善し、政府系金融機関として民業の補完に徹し、かつ、本当に必要な金融機関としての役割を見出していくことにあるのではないか。(鷲尾香一)

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
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