先日、新聞の投書をきっかけとした、「『ワーママの育休が同僚男性の負担に』 新聞投書欄の訴えに『笑わせるな!』と批判殺到」(J‐CASTニュース 2017年11月3日付)の話題がインターネットで盛り上がりを見せた。
要約すると、職場で育児休業を取得した女性の仕事が同僚の男性社員に降ってきて、自身の子供の入学式も欠席せざるをえなかったという内容だ。なぜ、こうした問題が起こるのか。そして対策はどうあるべきか。少子化にも関係する重要なテーマなので簡単に解説しておこう。
原因は、担当業務と給料が見合ってないから
こうした問題は、ひと言でいうと日本企業の賃金形態が職能給という属人給であり、担当業務が曖昧かつ給料とほとんどリンクしていないために起る。と言っても、一般の人はちんぷんかんぷんだと思うので、具体的に説明しよう。
ある職場に、20代女性社員のAさんと、40代男性社員のBさんがいたとする。二人とも新卒で入社しており、基本給は勤続年数によって差のつく年功賃金で、それぞれ20万円、50万円をもらっているとする。
部署全体のミッションは明確だが、職場内での担当業務の線引きは曖昧で、追加の仕事は何となく手が空いた人がやるという慣習になっている。
そのため、Aさんが1年間の育児休業を取得することが決まったとき、「なんとなく担当業務が似ていて、なんとなく手が空いているように見えたから」という理由から、BさんがAさんの仕事の多くを引き継ぐことが決まった。
ここで重要なポイントは、BさんはたとえAさんの仕事をフルにこなしたとしても、(残業代を別にすれば)その分の給料がもらえるわけではないということだ。
仮に「Aさんのお仕事分の値段を自分に上乗せしてくれ」と言ったとしても、そもそもAさんの仕事にどれほどの値がつくのかは、社内のだれも把握していない。Aさんはただチームの一員として、勤続年数に応じた賃金を受け取っていたに過ぎないからだ。
こうしてBさんの心の中には「なんで自分だけがこんなに苦労しないといけないのか」という不満だけが残ることになる。恐らく、話題のきっかけとなった新聞投稿に対して同情のコメントを寄せている人は、大なり小なり似たような経験があるのだろう。
担当する業務で給与ベースを決めろ!
では、処方箋はどうあるべきか――。まずは各人の給料を担当業務に応じて決まる職務給に見直したうえで、育休などで誰かが負担した場合はきっちりその分を上乗せすることだ。
たとえば、担当する業務で給与ベースを決め、Aさんは30万円、Bさんは40万円受け取っているとする。仮にAさんの育休に伴って担当業務をBさんが引き継ぐことになれば、Bさんは30万円受け取ることができる。
むろん、猛烈に働いて丸々受け取ってもいいし、予算の範囲でアシスタントを一人雇ってもいい。そうしたことを決める裁量と報酬をセットで与えられれば、育休取得者に対する不満が一方的に高まるということはないだろう。
じつは、この構図は「有給休暇がなかなか取れない空気がある」「仕事が終わっても早く帰りづらい雰囲気がある」といった問題と共通するものだ。
戦後の日本型組織は、責任と報酬の基準を曖昧にすることで疑似的な共同体を生み出し、従業員から高い貢献度を引き出すことに成功してきたが、同時に「個々の権利を行使しづらい空気」も生み出してきた。
もはや滅私奉公で銭が稼げる時代でもないのだから、そろそろ旧態依然とした組織を見直したほうがよいのはなかろうか。(城繁幸)