ビットコインの史上最高値が更新される一方で、ビットコインの分裂、あるいは他の仮想通貨では詐欺行為やマネーロンダリング、犯罪上の資金決済に利用されるなど、何かと話題の多い仮想通貨。その仮想通貨にメガバンクが参入するという。公定通貨の対局にあり、犯罪の温床にもなり始めている仮想通貨に、なぜ、通貨のプロであるはずのメガバンクは参入しようとするのだろうか――。
「1仮想コイン=1円」の意味
三菱UFJフィナンシャルグループは、すでに2016年2月から「MUFJコイン」の実験を開始、今秋にはMUFJコインを一般販売すると発表している。2016年12月に日本IBMと仮想通貨「みずほマネー」を開発したみずほフィナンシャルグループ。ゆうちょ銀行や70の地銀と連携して、「Jコイン」いう新たな仮想通貨を2020年までに発行すると報じられている。
三菱UFJとみずほ、両者に共通しているのは、「1MUFGコイン=1円」「1Jコイン=1円」と固定されていることだ。
つまり、他の仮想通貨、たとえばビットコインのように、大きな価格変動性はない。メガバンクの「仮想コイン」(MUFJコインとJコインを仮にこう呼ぶ)が変動するとすれば、それは為替変動にそったものとなる。1ドルが110円から115円の円安になれば、1仮想コインも1ドルに対して115円の円安になるということだ。
あるメガバンクの幹部は、「仮想通貨に参入するつもりなど、さらさらない」と、さらりと言う。メガバンクが準備しているのは、あくまで「円という通貨」の電子上での代替物なのだ。
つまり、現金という現物がない代わりに、データ上では現金(円)と同じ価値を持つ代替物ということ。大雑把に表現するなら、プリペイド(前払い式)電子マネーというところではないか。
それでも、たとえばスマートフォンに仮想コインのアプリをダウンロードすれば、現金を持たずに、銀行キャッシュカードも持たずに、クレジットカードも持たずに、スマートフォンだけで、買い物や飲食ができるようになるかもしれない。
このとき、通帳も、利用明細も、引き落とし通知も、それこそ関連する紙ベースのものはなくなり、すべてはスマホで完結する。
これはメガバンクにとって、大変な経費削減につながり、もちろん、利用者となる顧客側にも、手数料がかからないといったメリットが出てくる可能性が高い。
「本丸」はブロックチェーンにある
それだけではない、仮想コインを使うことで、取引先や顧客の消費などのデータが取り込め、ビッグデータとしてこれを活用することが可能になる。
とはいえ、メガバンクの本当の狙いは、「ブロックチェーン(分散型元帳技術)にある」(メガバンク幹部)という。
「フィンテック(金融技術)の中で、ブロックチェーン技術は非常に魅力的。ブロックチェーンを現在の銀行業務の中で実用化するための実証を様々に行っているが、仮想通貨もその一環」
そう言うのだ。
このように、メガバンクの仮想コインは、ビットコインなど既存の仮想通貨とは大きく違う。それはむしろ、仮想コインを使うことで銀行業務の省力化やコスト削減、あるいは顧客の利便性向上を目指したものであり、価格変動という側面だけ捉えても、ビットコインのように独立した通貨という性質を持ちあわせたものではない。
つまり、メガバンクの考えている「仮想コイン」は、仮想通貨ではなく、「コイン」と名の付いた新たなサービスでしかないのかもしれない。
ところで、3メガバンクの中で、三菱UFJフィナンシャルグループとみずほフィナンシャルグループを取り上げたが、あと一つ、三井住友フィナンシャルグループを取り上げていない。
じつは、三井住友は自らが仮想コイン発行する「主役」の立場になることは発表していない。しかし、国内でビットコイン最大の取引を誇るビットフライヤーのメーンバンクであり、もっとも本物の仮想通貨に近いポジションについている。なかなか、どうして、三井住友のしたたかさが垣間見られるではないか。(鷲尾香一)