受験エリート社長の面目丸つぶれ 英語ペラペラの息子に教わったこと(大関暁夫)

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   会社経営者の仲間たちとの定例的な飲み会でのこと。従業員30人ほどの企業経営者である50代半ばのYさんが突然、英会話スクールに通い始めたという話をしはじめました。

   数名の参加者は皆一様に、「なんでまた?」という疑問を投げかけます。Yさんの会社は地方自治体および地方企業向けの印刷出版サービスを生業としており、ビジネスの国際化とは無縁。私を含め、参加者の誰もが、Yさんと英会話スクール入学はどうにも結びつかなったのです。

  • 社長、英会話を磨く!?
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英会話学校に通い始めたY社長

「息子が今年26歳で修行先からうちの会社に入ったので、夏休みに仕事の勉強も兼ねて久々に一家三人でーストラリア旅行に行ったのです。そうしたら行ってビックリ、ヤツは英語が普通に話せるのです。となると親として英会話が苦手なのはカッコつかないし、恥ずかしかったわけで。家内からも『今回は英語の話せる人がいてよかった』なんて言われちゃうと、社長の威厳だってあったものじゃない...... それはともかく、息子が結婚でもして孫が物心つくまでには、『英語もできるおじいちゃん』にならなくちゃ、と思ったわけです」

   この話に、一同は笑いながら、「都内有数の受験校から難関私立大学を卒業した、いわゆる受験エリートのYさんが?」と、意外な表情を浮かべました。確かに一流高校で難関大合格レベルの英語を身につけたはずのYさんが、英会話が苦手というのはピンと来ないかもしれないのですが、同じく都内受験校を卒業した私から見れば、至極当然に思えました。

   我々の世代が学校で習った英語には英会話はほとんど含まれておらず、中高6年間で膨大な時間を費やした英語授業の大半は文法中心の読み書きです。特に受験校にはLL教室すら存在せず、ひたすら知識の蓄積ばかりに励んだという記憶があるのです。

「偏差値的なものの言い方をすれば、ハッキリ言って息子よりも僕のほうが数段水準の高い学校を卒業しているわけで、なのにどうして英語の会話がこんなにも身についていないのかって考えてみたわけです。僕らの時代の学校英語は、会話なんて二の次、三の次だったじゃないですか。息子たち世代は授業で英会話もある、思い出してみればヤツは高校時代にホームスティも経験済みですから。私と実践で差がつくのは納得ではあるのですが......」

幹部が経営に無関心、その原因は?

   ここまではよくある英会話スクール入学きっかけ話なのですが、さすがベテラン経営者のYさん、恥を忍んで突然この話を皆にしたのには少しばかり深いわけがあったようです。

「この英会話学校って、1回の時間は30分とものすごく短いのです。ところが至って少人数。時にはマンツーマンってこともある。テキストなんてなんもなし、あるのは外国人講師との英語のみの会話だけ。しかも教えてくれるというよりは、話しかけられてこちらがそれに答えていくのだけど、これが不思議と身について上達していく実感があるのです。それを感じると同時に、じつはものすごく反省もさせられちゃったのですよ。うちの幹部が、いくら口うるさく言っても経営に無関心なのは、僕が原因じゃないのかと。英会話だけじゃなく、僕は仕事でも知識偏重で、育ってほしい幹部とのかかわり軽視だったのじゃないか、とね。これって、もしかして受験校育ちの悪弊かなと思わされました」

   はじめはYさんの英会話スクール入学を茶化していた周囲も、神妙な顔つきでYさんの話に聞き入ります。

「簡単に言うと、机上の勉強はそれなりに重要だとはしても、現実社会はそれだけで通用するほど簡単なものじゃない、その点は英会話も組織運営も同じなんじゃないか、って。僕は幹部社員に名著と言われるビジネス書やビジネス誌とかをもっと読むように言っているのですが、それは知識の蓄積にはなっても現実の企業経営に関心を持って前向きに取り組むようになるには、もっと違う何かが必要なんじゃないかと思いました。すなわち自分の日常は、英会話ならぬ経営会話が足りていないのじゃないか、と思ったのです」

   英会話スクールは知識の蓄積を求めるものではなく、質問と回答という自然なやり取りの中から身になるものを生み出していく、そんな行程での英会話上達の実感は経営者であるYさんの心を揺さぶったようでした。

「講義」じゃ人は育たない!

「英会話講師は、いい質問をしてくれるからこちらも返しながら勉強になる。一方の僕は、指示は出しても質問はしない。つまり、僕のやり方は実践経営会話スクール方式ではなくて、経営講義方式に近くはないかと。僕の知識を活用してほぼ一方的に指示を出す、その繰り返しですから。これでは、部下が育つための実践的な経営会話が全然足りていません。僕自身が学んできた、まったく実践的じゃない英語と同じ状態なのです。これは変えなくちゃ、ですよ。ボンクラだとばかり思っていた息子に、はからずも教えられちゃったようです」

   受験英語と英会話、その学びの違いから自身の経営者としての「質問コミュニケーション=経営会話」不足に気づきを得たというYさんの話に対する皆の反応からは、一同少なからず思い当たる節があるように思いました。

   皆さん会社では果たして、経営会話は足りているでしょうか。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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