部長~ どこですかぁ~! 流行のフリーアドレス型オフィスは「慣れ」なのか?(江上剛)

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   働き方改革のひとつの形なのでしょうか。最近、多様なワークスタイルを奨励する会社が増えているようで、中小食品卸の弊社でも自分の席にとらわれないフリーアドレス型オフィスを導入。デスクトップ型のパソコンがノートパソコンに代わり、一人ひとりに支給されました。ただ、運用がはじまってみると、ふだん座っているはずの場所にその人がいないことが、はっきり言って不便です。入社3年目の私がそう感じているのですから、ほかにも疑問の感じている人がいるはず。上司は「今に慣れる」というのですが、正直、もとに戻してほしいです。こういうことは一度決まると、どうにもならないのでしょうか。

   私の著書に「失格社員」(新潮文庫)があります。

  • ノートパソコン抱えて、あちらこちらでお仕事中
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ノートPC持参、コーヒー飲みながら、自由な席でどうぞ!

   これはモーゼの十戒をテーマにした短編集ですが、その中に「安息日を聖とせよ」という短編があります。

   この中で、あなたのように新しいオフィスで戸惑う人を描いています。この作品を書いたのは、もうずいぶん前ですが、実際に汐留にあった大手IT企業に取材に行った体験をベースにしています。

   その企業にはそれぞれの各自の机や椅子がありませんでした。

   みんながノートパソコンを持って、好きなところでコーヒーを飲みながら仕事をするのです。

   議論はチャットでリアルタイムに行っていました。

   どうしても集まらないといけないときも、ノートパソコンだけを持って集まります。資料やデータはその中に入っているからです。

   フロアは1000坪の広大さ。その中には、森や川が流れていて、部長や役員などの部屋も何もありません。社員も役員もその中で自由にノートパソコンだけを持って働いているのです。

   私は、みんなが遊んでいるものと思いました。

   あなたの会社は、今、私が何年も前に見たオフィス革命を経験されているのですね。

   慣れないと大変だと思います。私のようにITに弱い者は、昔ながらの会社の景色がいいですね。だれがどこにいるか分からないのにノートパソコンを通じてだけ、話す。顔をどうしても見たいときだけ、適当な場所に集まる...。

   こんな会社は正直に言ってイヤです。

問題意識は社員全員で共有

   私は、昔ながらの会社がいいですね。たとえば、会社に来たら自分の席があって、そこには妻か子供の写真が飾ってある。椅子は、管理職の証の肘掛け椅子......

   でもこんな景色にあこがれているようでは、もう時代遅れなんでしょうね。

   ただ、言えることは、あなたの会社や私が取材した汐留のIT企業も、ノートパソコンを支給し、それにすべてを託し、個人の机や椅子をなくしたほうが、ホワイトカラーの生産性が上がるということを考えたわけでしょう?

   なんのためにこんなことをするかと言えば、生産性の向上が目的のはずです。

   上司は「やがて慣れる」と言われたようですが、これは慣れ、不慣れの問題ではないのです。

   新しいシステムを導入しても、生産性が上がらなければ意味がないのです。 

   あなたは新しい仕事のやり方がおかしいと思うなら、上司にきちんと意見をいったらどうでしょう。

   社員全体で問題意識を共有していなければ、新しい試みは上手くいくはずがありません。余計に生産性は低下してしまうのではないでしょうか。(江上剛)

江上 剛
江上 剛(えがみ・ごう)
作家。1954年兵庫県生まれ。早稲田大学卒業後、第一勧業銀行(現・みずほ銀行)入行。同行築地支店長などを務める。2002年『非情銀行』で作家としてデビュー。03年に銀行を退職。『不当買収』『企業戦士』『小説 金融庁』など経済小説を数多く発表する。ビジネス書も手がけ、近著に『会社という病』(講談社+α新書)がある。
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