「ナゾ」の安堵感に包み込まれ、一心不乱に草むしり
参加者は事前に、公安のチェックを受ける。数か月前から本籍地情報などの書類を提出して、「皇居に立ち入らせてもOKか」審査されるのだ。
団長は冗談交じりに、
「ここにいるのは公安の厳しいチェックを通過した人たちなので、思想犯や前科持ちはいません。その意味では、『まとも』な人たちだから、深い話をしても大丈夫です(笑)」
と言ってメンバーを笑わせていた。
なんだか楽しい。とても楽しい。
さらに、宮内庁の規則では、広い皇居を1日歩いて清掃をこなせる「健康な人」しか参加できないから、メンバーは皆元気ハツラツだ。毎朝7時集合で、グループのひとりでも遅刻すれば「全員参加NG」。作業中も時間厳守で、皇居内を歩く際は4列で行進しなければならない。
この厳しいルールに適応できる人たちだから、とにかく皆しっかりしている。仕事をサボる人もいない。
そうか、私は今、「国家によって『信用できる』と判断された人たち」の中にいるのだ。そう思うと震えた。公安の審査を通過した「労働者」として、ここにいていいんだという、謎の安心感。あの包み込まれるような感覚は何だったのか、今もよく分からない。
まあ包まれすぎると危険な気もするが、「あなたはここにいていいですよ」という、ナゾの安堵感のもと、一心不乱に草むしりをこなした。
時間もきっちり守った。もともと自堕落な性格なので、早起きへのプレッシャーから徹夜してしまうなど結構なヘマをやったが、4日間でなんとか夜型生活を改めることもできたと思う。
厳しい勤労奉仕を経て、少しは「真人間」に近づけただろうか――。しかし今、この原稿を締め切りギリギリに書いていることを思うと、やっぱりあれは非日常の労働体験だったのかもしれない。(北条かや)