現状肯定型の組織は活性化力に乏しく、リスクが増える
トップ自身が発した「危機感」という言葉に、思わずハッとさせられました。
確かに、トップに「危機感」が失われ、現状に安住するようになると企業はさまざまな意味で多くのリスクを抱え込むようになるのは間違いのないところです。皆が社長の言うことを聞いているからといって、それで果たして正しい道を進んでいるかどうかとは、まったく別の話なのです。
組織論の大家であるエドガー・シャインは、「危機感」と「変化への不安」の関係を次のように解いています。組織リーダーが「変化への不安=現状安住」>「危機感」の状態にある場合、現状肯定型の組織体制となり、活性化力に乏しくなり、さまざまなリスクが増える。すなわち、健全な組織運営を継続していくためには、常に組織のリーダーが「危機感」を感じ、変化を恐れる気持ちを乗り越えて、現状の安住から脱却する必要があるのだと。
Y社長はこのシャインの理論を肌で感じ、現状安住ぎみの自己のリーダーシップに不安を覚えていたのでしょう。そこで、自身の日常的な言動に対する社員からの忌憚のない意見を聞くことで、現状のままのではまずくはないか、省みなくてはいけない部分もあるのではないか、という「危機感」を得て部下から指摘されるような悪いところがあるのならば、勇気を持って正していこうとしたわけです。
T社の「360°評価」はすべて匿名回答にすることで忌憚のない意見が集められ、パワハラ問題の実態は解明され、職場改善に一役買いました。
そしてY社長にはさらに大きな成果があったようで、「社員からの意見には本当に『危機感』を煽られました。今後も「360°評価」を定例実施して、社員の忌憚のない意見を聞き、組織改善に努めます」と話していました。
組織ぐるみの不祥事に見舞われた日産自動車や神戸製鋼所では、下からの風通しをよくする仕組みに欠けていたのでしょうか。規模の大小に関わらず、全権を握るトップが存在する企業において、健全な組織運営を維持していくためには、トップが社員の意見を定期的に吸い上げる仕組みが不可欠であると、痛感させられる次第です。(大関暁夫)