大切なはずの衣類なのに、クリーニング店にワイシャツやブラウスを預けたまま長期間引き取らずに放置しているケースが少なくないことが、全国クリーニング生活衛生同業組合連合会(全ク連)の「長期間放置品についての実態調査」でわかった。
全ク連によると、全国の約9割のクリーニング店で、長期間引き取られずに放置されている衣類があるという。そこには、放置せざるを得ない事情があるようだ。
約9割が長期間保管 なかには25年以上のケースも
全ク連の調査によると、「仕上がり予定日を過ぎても数か月~1年程度以上引き取りのない品物(長期間放置品)があるか?」という質問に、約9割にあたる87.4%が「ある」と答えた。
また、こうした長期間放置品の数は、「10~19点程度」との回答が27.2%(101か店)で一番多く、「1~9点以下」(24.2%、90か店)、「20~49点程度」(23.9%、89か店)がいずれも24%前後で続いた。「200点以上」も2.4%(9か店)あった。
さらに、「一番古い放置品はいつ頃のものか」という質問には、「3~5年未満」が23.2%でトップ。次いで「5~10年未満」が20.5%だった。「25年以上」と答えた店も、5.9%あるというから、驚きだ。
長期放置品の多くは「ワイシャツ・ブラウス」で68.6%を占め、「セーター・カーディガン」が58.7%、「スーツ類」も53.9と半数以上。コートなどの季節的な衣類よりも、ふだんからよく着るものが多いこともわかった。
店側は、「受け付けの際は必ず電話番号を聞く」「2か月過ぎても来店しないときは電話する。配達する」などの対応をとっているものの、長期放置品が「ある」と答えた人に1年間にどれくらい増えるのか聞いたところ、67.9%が「1~9点以下」と回答。「10~19店程度」が22.8%、「20~49店程度」も6.8%あった。年間100点ほど増える店も、わずかとはいえあるようだ。
衣類を処分したら、問題になる?
また、長期放置品が「ある」と答えたクリーニング店のうち、66.3%が長期間放置品を「期限を区切らずに(引き取りに来るまで)保管」していると答えており、31.3%が「期限を区切って処分」していると回答した。
「期限を区切って処分」している店では、5年以上過ぎると過半数以上(51.7%)が処分するとし、一方で「預かってから1年程度」で処分すると答えたのは3.4%と、店舗により対応が異なることがわかった。
期限を区切らずに保管している背景として、全ク連は、「店舗によっては、お客様に交付する会員規約の中で、『〇年以上、引き取りに現れない場合は処分する』という文言を個別に記載しているものの、勝手に処分することは、お客様の民法上持っている所有権を侵害することになるのではないかという懸念があるため」という。
では、会員規約に則って処分をすることが、民法上の権利侵害になるのだろうか――。東京都内のある弁護士事務所によると、規約内容が著しく不当でなければ、基本的には当事者同士で交わされた規約内容が優先されるとの見解を示した。
「たとえば、『〇年以上取りに来ない場合、破棄する』という規約は、1週間など極端に短いものではなく、少なくとも1年以上である場合は、著しく不当とはいえず、破棄しても問題ないと考えられます」という。
また、「お客様が規約内容を把握していないことも考えられるため、『1年以上、衣類を取りに来ない場合は、お客様は、お店側がお客様の承諾なしに処分することに同意する』といった内容を契約時にきちんと説明し、入会規約に赤線で大きく書くなどの配慮をして、お客様と同意のうえで契約をするとよりよいでしょう」と、アドバイスしてくれた。
スペース確保して保管も、料金は請求したことない
全ク連の調査によると、長期間放置品を抱えている店側の負担としては、「保管スペースの確保」が78.6%とダントツで多かった。また、長期間放置品の返却時に、保管料を請求したかどうか、聞いたところ、90.1%が「保管料を請求したことはない」と回答。少数ながら「保管料を請求して支払ってもらった」(5.5%)との回答もあった。
保管料について、前出の弁護士事務所は、「引き取り日が経過したあとは1日10円といった保管料をお客様が支払うなどを規定し、保管に係る費用負担を明記しておくことも大事です」とも話す。
全ク連では、今後、行政や消費者団体らと話し合い、より統一されたルールづくりを進めたいとしている。多くの人が利用するクリーニング店。今後、店側にとっても消費者側にとっても、納得できるルールづくりが求められている。
なお、調査は2017年8月10~28日実施。全ク連に加盟する全国の組合員のうち、無作為に抽出した427か店から回答を得た。(戸川明美)