無口な部長たちに、業を煮やす3代目社長
人づてに紹介された機械商社のH社のT社長は3代目。大学卒業後、大手商社で10年ほど勤務。父である前社長の入院を機に、想定外に取締役として自社に入社します。結局5年後に自身が社長に就任したものの、長年超ワンマンだった先代の管理下で失われた社員の覇気は戻りようもなく、どうしたら活性化できるのかと、相談を持ちかけてきました。
私は組織における会議の重要性を説明。オブザーバーで会議に出席させていただけるなら、所見アドバイス程度はさせていただきますとお話して、同社を訪問することになりました。
H社の会議は、私からすると壊滅的とも言える状況でした。総務部長が形式的に進行役を務めてはいるものの、なかなか出ない意見に業を煮やして、一たび社長が話を始めると、口調は優しくとも、出されるのは指示、命令の数々。さらには無口を貫く部長たちに何か話をさせようと、一人ひとりを指名して個別報告を求めるようになると、会議は完全に報告会の様相を呈していきます。
終始、社長一人が一生懸命に話したり報告をさせたりの状態が続き、会議は終了となりました。この活性化とは無縁と言えるH社の会議。問題なのは果たして、部長たちなのか、それともT社長なのか――。
米国UCバークレーで、ヘンリー・チェスブロウ教授と並ぶ看板教授のアンドリュー・アイザックス氏は、次のように言っています。
「強い専制的リーダーシップで組織をまとめることを善しとする時代が去った現代では、トップであれ、管理者であれ、リーダーたる者が『一人で考える』ことはもはや適切ではない。リーダーたる人間は、『一緒に考える』能力を開発することが求められている」
アイザックス氏は、NASAで最先端技術者として勤務した経験から、組織活動が素晴らしいものを生み出すために、参加者が相互に意見を出し合い、共同作業をすすめさせるようなリーダーシップの重要性を学んだのだと言います。