2年前に離婚した際、それまで住んでいた小奇麗なマンションを出て、こじんまりとしたアパートに引っ越した。物件を1日で決めて逃げるように移り住んだので、大して吟味する余地もなかったのだが、住んでみれば、とても快適だ。
最も気に入っているのは、ユニットバス。風呂とトイレが一緒になったコンパクトさが、身の丈に合った生活にフィットして居心地がいい。次に引っ越す際もぜひ、ユニットバス付きの部屋がいいと思っているのだが、最近はどんどん減っているというではないか――。
「お客様はそうとう珍しいですね~!」
不動産屋で「ユニットバス付きのアパートを探している」と言うと、毎回、怪訝そうな顔をされる。
「一般的に言って、女性のほうが男性よりも、物件に求める条件は増えますからね。オートロックや築浅物件、2階以上など、それなりのお部屋を希望される女性が多いですよ。そこへ行くと、あえてユニットバスを希望されるお客様は、そうとう珍しいですね~!」
そ、そうなんですか......
いわれてみれば私も、学生時代に人生初の1人暮らしを始めたときは、「風呂トイレ別がいい!」と理想を掲げていた。京都のド田舎だったにもかかわらず、風呂トイレ別というだけで家賃が6万円以上もして驚いたものだ。地方から出てきたばかりの18歳。足元を見られたのかもしれないが、あの部屋はなんとなくコスパが悪かった。
反省を経て、大学院へ進学する際には、生活費を少しでも抑えようと家賃4万円のアパートに引っ越した。そこで、「な~んだ、ユニットバスでも全然問題ないじゃん、それどころか掃除がラクで便利だよ」と気づいて以来、すっかりユニットバスの虜になったのだ。
一般的な物件では、風呂掃除とトイレ掃除の負担が重くのしかかる。ユニットバスなら、風呂のついでにトイレもササっときれいにできるから、2分の1の手間ですむ。「なんてラクなんだ!」と感動したものだ。
ユニットバスの物件は総合的なスペックが低く、家賃が安いのもいい。こんなにコスパのいい作りが、なぜ敬遠されるのか、さっぱり分からない。皆、独立した浴槽がそんなに好きなのか。
高スペックなのに「ユニットバス」って、ややこしい!
「まあ、確かに家賃は抑えられますね。でも今どきの女性で、ユニットバス『で』いいどころか、ユニットバス『が』いいと希望されるのは珍しいですよ!」
二度も言わんでいい! ユニットバスのよさを熱弁する私は、毎回、褒められているのかけなされているのか、よく分からない対応をされる。実際は「珍しい客が来たなぁ」と思われているだけで、褒めてもけなしてもいないのだろうが、何となく気まずい空気が流れる。
それもそのはず、私は実際、「ビミョーに扱いづらい客」だったのだ。
「ここ15年ほど、女性に住んでほしい物件では特に、大家さんがユニットバスを取り壊して『風呂トイレ別』にリフォームするケースが多いんですよ。その方が人気が出るし、家賃も高く設定できますからね。なので、ユニットバス自体がどんどん減っています。あえて探そうとすると、逆に難しかったりするんですよね~」
私は、女性が一般的に求めがちな条件(駅から近い、築20年以内など)は譲らない。そうなると、ある程度スペックが高い部屋しか出てこないにもかかわらず、1か所だけ「ユニットバスがいい」と条件を下げるもんだから、「そんなややこしい物件はありませんよ」と思われてしまうのだった。
不動産屋からすれば、「面倒なことを言わずに予算を上げてくれりゃあいいのに」というわけだ。そう思うと、なんとも不動産屋に申し訳なくなってきた。
しかし大家さん、世の中にはユニットバス好きのオンナもいるんです。と、心の中で叫んでみても、状況は変わらない。私はこれからもユニットバス付きのささやかな物件を求めて右往左往し続けるのだろう。(北条かや)