大企業には「経営」を学ぶ機会がある
大企業の事情がちょっとばかり違うのは、経営者がサラリーマンであろうとオーナー系の二代目、三代目であろうと、自分がそのポジションに近い将来就く可能性が出てきた段階で、経営者という役割について最低限の勉強をする機会に恵まれるからです。
すなわち、彼らは経営トップになる前に一定期間に大企業の役員として経営の一翼を担い、経営のなんたるかを時には第三者的に、時には当事者として学ぶことになるわけです。
つまり、起業家のオーナー経営者が何の予備知識もなく、いきなり社長のイスに座り、全権を持った責任者として指揮を執るようになることとは、そこに大きな違いがあるのです。
さて、冒頭でこんなことを考えるに至ったと記した「ちょっとしたキッカケ」の話をします。その発端は、以前自分で立ち上げた技術系企業を上場にまで持っていきながらもちょっとしたマネジメントミスが致命傷になり、結局会社を人手に渡すに至った発明家技術者M氏からの一本の電話でした。
「私が発明した新しい画期的技術の特許が通り、大手からの引き合いも出始めたので、新たに会社を設立して3年後の上場を目指すことにしました。そこで、あなたに手伝ってもらいたい。単刀直入に申し上げると、この会社の社長を引き受けて欲しいのです」
私は驚きました。私に社長職を勤めて欲しいという申し出にと言うよりは、M氏が自ら立ち上げた会社の経営者を、他人に任せようとしていることに、です。なぜなら、以前上場させた企業では、私を含め周囲の何人かが「この先会社を大きくしたいのなら、タイミングを見て社外取締役に経営のプロを入れて合議制にするか、あるいはその手のプロに社長のイスを譲って会社然とした組織づくりをめざしたほうがいい」とのアドバイスに、どこまでも「自分の会社」であることにこだわって頑なにこれを拒否していたからです。