置いてけぼりの年金問題 消費税の使い道「子育て支援」は耳触りがいいけれど...(鷲尾香一)

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   衆議院選挙が2017年10月10日に公示された。22日の投開票に向けて、選挙戦はいよいよ本格化。どこに解散の大義があって、争点がどこにあるのか。はっきりしないことだらけだが、小池新党と立憲民主党の登場で対立軸だけは明確になった。

   そうしたなか、もっともらしい争点に急浮上したのが、消費税率の10%引き上げとその使い道。税収が増える分で3~5歳のすべての子どもの幼児教育・保育の無償化を、与党の自民・公明両党が打ち出した。一方、その陰に隠れて、水面下で不気味な動きをみせているのが、年金問題だ。

  • 増える高齢世帯の生活保護、年金問題はどうなるの?
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水面下で動き出した「年金受給年齢の引き上げ」

   積み残されている年金問題には、低所得年金受給者に対する「年金生活者支援給付金」や、低所得の65歳以降被保険者の介護保険料の負担軽減がある。これらは、消費税率を10%に引き上げるまで実施が見送られてきているものだ。

   新たに浮上した、消費増税の使い道である幼児教育・保育の無償化で、これらの問題がどうなるのか、安倍首相から今のところ明確な発言はない。

   さらに、問題なのは年金受給年齢の引き上げが水面下で動き出していること。9月12日、内閣府の「高齢社会対策の基本的考え方等に関する検討会」が、報告書の骨子案を発表した。この検討会は6月9日開催の「高齢社会対策会議」で、新たな高齢社会対策大綱案の作成を行うことが決定され、内閣府に設置された。

   この報告書の骨子案では「第2部 高齢者個人の活動」の中に、以下のような記述がある。

「年金受給を70 歳まで繰り下げることにより、最大で42%増の額を受け取ることができる現行制度の利用率が低い。就業促進の観点からも十分な周知が望まれる。また、高齢期にも高い就業意欲が見られる現況を踏まえれば、繰り下げを70 歳以降も可能とするなど、より使いやすい制度とするための検討を行ってはどうか。」

   つまり、現在の年金制度は、受給開始年齢を70歳まで延ばせば、最大で42%も年金額が増加するのに、これが使われていないと指摘しているわけ。裏を返せば、このことが年金受給の開始年齢を70歳まで遅らせる理由になりかねない。

貧困高齢世帯は「4世帯に1世帯」

   とはいえ、この判断は本当に妥当なものなのだろうか――。母子家庭の代名詞だった「生活保護家庭」は、いまや母子家庭を抜いて高齢者世帯がトップになっており、年々その数は増加している。

   厚生労働省の「国民生活基礎調査」から、無年金世帯と主収入を年金・恩給に頼る低所得(年収200万円以下)世帯数を概算すると、「貧困高齢者世帯」は1997年には211万世帯だったが、それが2012年には倍以上の445万世帯に増加している。

   すでに、高齢者世帯(1327万世帯、2016年現在)の4世帯に1世帯が「貧困高齢者世帯」ということになる。

   同じく厚労省の「国民年金被保険者実態調査」によると、1940年代後半生まれの団塊の世代では、年金未納・免除者率が30%程度であるのに対して、それ以降は1950年代前半生まれ(65歳前後)で35%前後、50年代後半生まれ(60歳前後)で45%前後、60年代前半生まれ(55歳前後)で40%台後半と上昇する。

   当然、年金保険料を納めていないのだから、受給できる年金額はわずかしかない。これから貧困高齢者は確実に増加していくのだ。

   これらは、「生活保護の予備軍」でもある。受給年齢を引き下げるならまだしも、先延ばしするのでは、あまりに実態にあっていない。こうした事実を理解したうえで、今後の高齢者社会対策が検討されているとは思えないのだ。

「働けば賃金を得られる」は、まやかしだ!

   内閣府の報告書の骨子案では、年金受給年齢になっても、まだまだ元気なのだから、働くことで賃金を得て、年金の受給を遅らせればよい、というロジックになっている。確かに一理ある。労働人口が減少に入った現在、高齢者も重要な労働力であることは間違いないだろう。

   しかし、そんなお題目は、もう聞き飽きた。問題は、現行の再雇用や定年延長といった制度では、賃金が大幅にカットされることにある。「仕事の内容が定年前とほとんど同じなのに、給与は現役時代の3分の1。これでは生活できない」(67歳、製造業)という声がほとんど。つまり、「年金受給と並行して仕事をしているから、何とか生活水準を下げずに済んでいる」というのが実態なのだ。

   ちなみに、厚労省が2017年10月4日に公表した「生活保護の被保護者調査」によると、全国で生活保護を受けている世帯は今年7月時点で、164万1087世帯。そのうち、高齢者世帯は86万3050世帯と半数以上を占めた。さらに、このうちの約9割が単身世帯なのだ。

   こうした現実を踏まえたうえで、年金受給の開始時期を議論しなければ、実現不可能な、あるいは貧困高齢者を増加させるだけの制度改正に陥るだろう。

   本当に年金受給年齢を先延ばしし、高齢者を労働力としたいのであれば、衆院選で「高齢者の雇用企業に現役並みの給与を保障させる」くらい思い切った政策を掲げる必要があるのではないか。(鷲尾香一)

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
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