辞めるべきか残るべきか、60歳前の「介護離職」という選択(江上剛)

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介護離職は社会問題、詳しい人に聞いてみることも

   あなたの場合、お母様の介護が生活の主になっているようですね。今の仕事も、ある意味、介護のためにやっておられるようにお察ししました。

   政府は介護離職ゼロという目標を掲げています。それは介護離職によって不幸になる人があまりにも多いからです。介護には終わりは見えません。まさか何年後に確実にお母様の介護が終わるなどということは分かりませんからね。

   介護離職した人が、徐々に蓄えを減らし、結果として貧困に陥り、介護される人もする人も共倒れになり、自殺や衰弱死に至るという現実があります。もし、介護離職するにしても相当しっかりした財政計画を立案してからにするべきだと思います。

   あなたがお考えになっている転職も、広義の介護離職に当たるのではないでしょうか。

   今の会社を辞めて、転職しようとしたが、なかなか適当な会社が見つからないということになれば、離職したことになります。たとえ転職先が見つかったとしても、今までの慣れた会社と違ってなにかとストレスが募るのではないでしょうか。そうなると居づらくなって、また離職することにもなりかねません。

   お母様の介護を、介護付き老人ホームに任せるか、介護保険による各種の公的支援を受けるかなどして、あなたの介護の負担を大幅に改善しないのであれば、転職はするべきではない、と思います。

   幸い、転勤先も通える場所であるようです。もし可能なら思い切って、会社に介護の事情を説明し、転勤を再考してもらうことができないのでしょうか。

   また、あなたのように介護で深刻な事態に陥ったことがある人は少なくないはずです。会社内のほか、地域やご友人などで同じような境遇にある方や介護に詳しい人に、ぜひご相談されるべきでしょう。

   私に言えることは一つだけ。お母様の介護を主に考えた生活をする場合には、介護によるあなたとお母様の共倒れだけは防ぐようにしてください、ということです。(江上剛)

江上 剛
江上 剛(えがみ・ごう)
作家。1954年兵庫県生まれ。早稲田大学卒業後、第一勧業銀行(現・みずほ銀行)入行。同行築地支店長などを務める。2002年『非情銀行』で作家としてデビュー。03年に銀行を退職。『不当買収』『企業戦士』『小説 金融庁』など経済小説を数多く発表する。ビジネス書も手がけ、近著に『会社という病』(講談社+α新書)がある。
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