主に省力機械を製造するC社のS社長は、以前からシルバー人材の採用に熱心です。
ある時、その理由を尋ねてみたのですが、これがなかなか奮っていました。
シルバー人材に期待する3つの理由
「(シルバー人材を採用する)理由はいくつかあります。ひとつは、まだまだ活躍できる経験豊富なベテランの方々を冷遇したり手放したりする大企業に代わって、ありがたく有効に使わせていただくというおこぼれ目的。中小企業では普通雇えないような技術ノウハウや経験を持っていながら会社の都合で遊ばされている人材が、世の中には山ほどいます。フルタイム勤務や残業三昧の長時間労働は無理としても、週に3日、一日6時間勤務でも十分戦力になる。そして、このような契約ならば賃金も安く済む、という低人件費目的がふたつ目の理由かな」
注目すべきは、さらにもうひとつ、三番目の理由です。自身が御年68歳を迎えられたS社長自身の、身の回りからの実感あればこそと言えるものでした。
「三番目として、世のため人のため、人助け目的ですね。じつはここ数年、高校の同級生たちが続々定年退職をしていて、暇にまかせて飲み会ばかりやっているのです。私も何度か出席しましたが、友人たちのお悩みは家にいてもやることがない、趣味や旅行にも飽きたさてどうしようか、というものばかり。そんな友人の一人に、以前大手企業で知財関係をやっていた者がいたので、うちの会社を手伝わないかとお誘いたらこれが大変役に立って、お互いハッピーな結果に。それが当社のシルバー人材積極採用策の発端だったのです」
確かにこの三番目の理由は、最も今注視すべき視点からの取り組みであると言えそうです。
働き手として現役のあいだにはなかなか気がつかない思わぬ落とし穴があります。それが定年退職後の日々をどうおくるのか、という問題です。
最近言われ始めた人生100年時代の考え方では、新卒就職から定年退職までの時間と、定年退職から人生終焉までの時間はほぼ同じだけあります。そして後者をいかに有意義に過ごすのかということは、終身雇用制度という名のもとに定年すればまだまだ働ける知力と体力がありながらも乱暴に放り出される我が国の就労環境では、サラリーマン諸氏にとって大変由々しき問題であるのです。
あと30年、家で過ごすと思うと......
私の銀行若手時代の上司であったMさん。昔の職場の集まりで本当に久しぶり顔を合わせた時にまだ60代半ばで健康なご様子ながら、風貌的には急激に老け込んだご様子でこんなことを言っていました。
「退職して2年半が経つのだけれど、日々の仕事から解放されて『これから自由にやりたいことをやろう』なんて思いが続くのは辞めてから半年あるかないかですよ。気がついたことは、仕事以外のことは何をやっても結局は達成感がないということ。だからと言って、家に居てばかりでは家族に疎まれがち。日々やることのないつらさから、ハローワークで職探しを始めたのだけれども、この歳でブランクがあると雇用機会はほとんどありません。この先10年も20年もこの状態が続くのかと思うと、本当に憂鬱です」
Mさんはお気の毒に、深刻なお悩みを抱えているご様子でした。元銀行員はつぶしが効かないと言われていますが、銀行という人一倍厳しい管理組織で長年を過ごした経験の中に必ず中小企業で役に立つノウハウがあるハズなのです。
しかしながら、C社のようにシルバー人材を積極採用している企業がまだまだ少ないうえに、個々のシルバーが潜在的に持っているノウハウや能力に気がついてくれる経営者が少ないのが実情なのです。
シルバー人材の積極活用を実践しているS社長ですが、自社の社員に関しては悩みもあると打ち明けます。
「当社は他社での豊富な経験を活かしてほしいと、シルバー人材を積極的に採用して新たな活躍の場を提供してはいるのですが、一方で40代半ばから50代を迎えた自社社員たちの定年後対策も考えていかなくてはいけないという現実もあります。とにかく、担当業務で他社がほしいと言ってくれるように腕を磨かせること、ベテラン社員には日々特にその点の指導を心がけるようにはしていますが、これがなかなか難しいのです」
社長の考えでは、「C社がシルバー人材の採用に取り組む代わりに、定年を迎えた自社の社員はなるべく知り合いの会社に紹介して再雇用してもらい、新たな活躍の場を与えていきたい」のだと言います。それが本当に実現できるなら、若年層労働力の絶対数が減っている昨今の情勢の中で、世の中的にも大いに歓迎される流れになるのではないかと思います。
人生100年時代において企業は、シルバー人材の有効活用に前向きに取り組むとともに、自社の社員に対してはその在職中に、定年退職後も一生働ける社会から必要とされるスキルを身につけさせること。
これが経営者に求められる新たな責務になっていくのではないかと思っています。(大関暁夫)