あと30年、家で過ごすと思うと......
私の銀行若手時代の上司であったMさん。昔の職場の集まりで本当に久しぶり顔を合わせた時にまだ60代半ばで健康なご様子ながら、風貌的には急激に老け込んだご様子でこんなことを言っていました。
「退職して2年半が経つのだけれど、日々の仕事から解放されて『これから自由にやりたいことをやろう』なんて思いが続くのは辞めてから半年あるかないかですよ。気がついたことは、仕事以外のことは何をやっても結局は達成感がないということ。だからと言って、家に居てばかりでは家族に疎まれがち。日々やることのないつらさから、ハローワークで職探しを始めたのだけれども、この歳でブランクがあると雇用機会はほとんどありません。この先10年も20年もこの状態が続くのかと思うと、本当に憂鬱です」
Mさんはお気の毒に、深刻なお悩みを抱えているご様子でした。元銀行員はつぶしが効かないと言われていますが、銀行という人一倍厳しい管理組織で長年を過ごした経験の中に必ず中小企業で役に立つノウハウがあるハズなのです。
しかしながら、C社のようにシルバー人材を積極採用している企業がまだまだ少ないうえに、個々のシルバーが潜在的に持っているノウハウや能力に気がついてくれる経営者が少ないのが実情なのです。
シルバー人材の積極活用を実践しているS社長ですが、自社の社員に関しては悩みもあると打ち明けます。
「当社は他社での豊富な経験を活かしてほしいと、シルバー人材を積極的に採用して新たな活躍の場を提供してはいるのですが、一方で40代半ばから50代を迎えた自社社員たちの定年後対策も考えていかなくてはいけないという現実もあります。とにかく、担当業務で他社がほしいと言ってくれるように腕を磨かせること、ベテラン社員には日々特にその点の指導を心がけるようにはしていますが、これがなかなか難しいのです」
社長の考えでは、「C社がシルバー人材の採用に取り組む代わりに、定年を迎えた自社の社員はなるべく知り合いの会社に紹介して再雇用してもらい、新たな活躍の場を与えていきたい」のだと言います。それが本当に実現できるなら、若年層労働力の絶対数が減っている昨今の情勢の中で、世の中的にも大いに歓迎される流れになるのではないかと思います。
人生100年時代において企業は、シルバー人材の有効活用に前向きに取り組むとともに、自社の社員に対してはその在職中に、定年退職後も一生働ける社会から必要とされるスキルを身につけさせること。
これが経営者に求められる新たな責務になっていくのではないかと思っています。(大関暁夫)