32歳、商社に勤めています。自分の好きなことを仕事にするというのは、夢を追いかけるようなもの、また自分の技術や才能でその夢を実現できる人はごく少数であると考え、就職しました。しかし、仕事に慣れて、ややマンネリぎみだからでしょうか。最近、学生時代に仲間とライブハウスなどで演奏していたことを頻繁に思い出すようになり、夢を追いたくなったのです。「これで稼げる」という自信があるわけではあありませんが、一生やっていく仕事として、商社マンと音楽を比べている自分がいます。こんなわたしはおかしいでしょうか。
仕事に慣れてきてマンネリになったとき、あなたのような思いに捉われがちです。
井伏鱒二先生は「銀行で修業を積め」と言った
私の例で恐縮ですが、作家になりたいとは一度も思っていませんでした。
しかし、井伏鱒二先生と出会い、同人誌の発行など、学生時代から作家への道を歩んでいたことには違いありません。
井伏先生からは、就職に際して「小説はいつでも書けるから、銀行で商売の修行を積んできなさい」と言われました。
才能はなかったのでしょうね。それに作家として食えるのは、ごく少数ですから、きちんとした生活を営んでほしかったのかもしれません。
それでも運命は、私を作家にしてしまいました。
49歳で銀行という職場に限界を覚え、退職を決意しました。その時、作家として自立できるなどとは、夢にも思っていませんでした。
ところが、人生おもしろいものです。なんの賞も取っていない私に、小説の注文が来たのです。処女作「非情銀行」(講談社文庫)が評判を得たからです。
私は注文をこなすために必死で小説を書きました。それで今日までなんとか、作家として暮らしているんです。これから先も続くかどうかはわかりませんから、毎日、不安でいっぱいです。
私は、銀行員として「十分に働いた」という思いで辞めました。これ以上、銀行にいても、おもしろいことはないだろうとも思いました。
あなたも、商社マンとして「十分に働いた」と思わないといけません。そうでないと過去に髪の毛を引っ張られます。辞めなければよかった、あのまま会社に残っていたら部長だ、役員だ、だって俺より評価の低かったあいつが役員になったのだから、クソっ、おもしろくない......
過去に髪の毛を引っ張られて、辞めたことを後悔することになるのです。
あなたには「十分に働いた」という気持ち、過去を振り返らない気持ちが必要です。そして、「食えるかどうか」などと迷っていては、好きなことはできません。まず飛び出さないといけません。