はじめの一歩は「相手を知る」こと
社長は、少しばかり神妙な顔つきになって説明してくれました。
「自社は私で三代目。祖父、そして父が磐石な土台をつくってくれた会社で、社員がついてくることを当たり前のように思っていましたが、人様の会社と人を引き受けてはじめて、まとめるということの大変さ、難しさを痛感させられました。当初は、私も社員もどこかで、統合する側の上から目線があったのだと思います。社長として、反発を繰り返す元T社の社員たちの話を直接聞いてみて初めて、気づかされたのです」
では、いかにしてそれを解決に導いたのか、関心は尽きません。
「上から目線、あるいは統合される側の被害者目線をどうしたら解消できるのか、随分と悩みました。あれこれ考えをめぐらせる中でヒントになったのは、私が師と仰ぐ大経営者が口癖のように言っている『営業も教育も、うまくやりたいならば相手を褒めて対話しろ』でした。褒めることの大切さはわかっていながらなかなかできない。これは上司だけの問題ではなく、同じ会社で働く社員すべてに言えることです。相互に褒めることをすればずれている目線も等しくなるに違いない、そう考えました」
K社長は幹部を集めて議論しました。具体的にどうやって相互に褒める文化を共有したらよいか。何よりお互いをよく知らないことには褒めることもできない。議論の末に出た結論は、T社、元G社それぞれの事業部をいくつかのグループに分けて、T社グループは元G社を、元G社グループはT社を徹底的に調べたり、グループ同士での対話を通じてヒアリングしたりして、お互いの強みを知り、それを発表するという一風変わったQCサークル活動(製品・サービスの品質管理、品質改善のための活動)でした。
自己の職場ではなく、相手の職場のいい点から学びそれを伸ばそうという試みです。