未払い代金の請求はいつまで可能? ~短期消滅時効の廃止~(第2回)

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従業員の未払い残業代、消滅時効期間は現行法で2年だが・・・

   そこで、改正民法では、通常の一般債権については、(1)債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、または(2)権利を行使することができる時から10年間行使しないときに時効によって消滅することとしました(改正民法166条1項)。これに伴い、商行為によって生じた債権に関する商事消滅時効(5年間。商法522条)も廃止されます。

   冒頭の設例では、現行民法では、BさんのAさんに対する債権は2年間で消滅時効が成立する可能性がありました(時効の中断や完成猶予については次回に解説します。)が、改正民法では、まだ消滅時効は成立しないことになります。

   また、サラリーマンに関する短期消滅時効で最も身近なものとして、従業員の残業代の請求権があります。これについては影響はあるのでしょうか。

   現行民法174条1号は、従業員の給料に関する債権の消滅時効を1年としています。しかし、従業員の賃金債権の消滅時効については、労働基準法115条が、労働者の権利保護の観点から民法174条1号の特例を定めており、「この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する」と規定しています。

   したがって、従業員の賃金債権(残業代などを含む)の消滅時効の期間は、現行法では2年となります。

   ところが、債権法改正により民法174条が削除されれば、労働基準法115条は規律の前提を失ってしまいます。115条はどのような内容となるべきなのでしょうか。

   2017年7月に開催された厚生労働省の審議会では、「民法の消滅時効の規定が整理されることに伴い、当該規定の特例である労働基準法115条の賃金再検討に係る消滅時効についても、その在り方の検討を行う必要がある」(労働政策審議会・労働条件分科会第137回資料2‐2)との指摘がされており、まさにこの点が今後検討されると予想されます。

   賃金債権に係る消滅時効の規定がどうなるか、今後の議論が注目されます。

たかぎ・ひろあき
西村あさひ法律事務所パートナー。学習院大学法科大学院特別招聘教授。2002年弁護士登録(第55期)。05年早稲田大学大学院アジア太平洋研究科非常勤講師。08年シカゴ大学ロー・スクール卒業(LL.M.)。08年〜09年ポール・ワイス・リフキンド・ワートン・ギャリソン法律事務所(ニューヨーク)に勤務。09年ニューヨーク州弁護士登録。09年〜13年法務省民事局参事官室出向(10〜13年法務省民事局商事課併任、14年会社法改正の立案などを担当)。著書に、「平成26年会社法改正と実務対応(改訂版)」(商事法務、編著、2015年)、「監査等委員会設置会社のフレームワークと運営実務----導入検討から制度設計・移行・実施まで」(商事法務、共著、2015年)、「改正会社法下における実務のポイント」(商事法務、共著、2016年)など、多数。
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