電車の中で、座っている人も立っている人も、体を少し前にかがめて、スマートフォンの画面とにらめっこしている。時には、ほとんどの乗客がそうしている――。よくある光景だ。
もちろん、周りにはなんの迷惑もかけていない。でも、この光景はどこか美しくない。異様でさえある。僕はそう感じる。
日本にも、「上向き族」はいない
もし、手にしているのが本だったら、どうだろうか。雑誌や新聞でもいい。スマホのときに比べて美しく、知的に感じないだろうか。
4年ほど前、中国・上海の地下鉄の駅で写真のような広告を見かけた。モデルの頭上の5文字は日本語だと「上向き族になろう」である。モデルの目線ははっきりと上を向いている。
上海の地下鉄でもうつむいてスマホに没頭している人が多かった。広告には「電車内ではスマホをやめよう」とは書いていないものの、「上向き族になろう」が意味するところはそれである。
日本旅行に来た中国人が言っていた。「日本は先進国だというから、電車の中の光景に期待していたけど、どこも同じだね」。
最近、日本の病院・医院で、「アンチスマホ」のポスターを見かける。「日本医師会」などが作ったもので、「スマホの時間 わたしは何を失うか」と題している。それによると、失うものは「睡眠時間」「学力」「脳機能」「体力」「視力」「コミュニケーション能力」で、それぞれに簡単な説明がついている。
たとえば、「学力」では「スマホを使うほど学力が下がります」として、2014年度の文部科学省と国立教育政策研究所の「全国学力・学習状況調査結果」を引用している。確かに、小学生でも中学生でも、スマホを使う時間の長い児童や生徒ほど、国語も算数・数学も学力試験の成績が落ちている。
「睡眠時間」では「夜使うと睡眠不足になり、体内時計が狂います。脳が昼と夜の区別ができなくなります」とあり、「体力」では「体を動かさないと、骨も筋肉も育ちません」、「コミュニケーション能力」では「人と直接話す時間が減ります」とある。