社長、なんでもかんでも自分でやらないで! それ、経営の「独禁法違反」ですよ

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   社長のお悩みで「人が育たない」というと、たいていが営業についてか、後継者についてです。

   そのような相談を受けて、企業を訪問して見えてくる原因は、多くのケースで営業や会議が経営者の独占状態にあります。営業でいうなら、売り上げの大半が社長営業に頼っているという状態。会議でいうなら、フリーな発言の大半を社長が独り占めしている状態です。

  • 社長はものすごく心配症でもあるんです
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「自分のマネしろ」が口癖のS社長

   私は、社長営業や社長発言が営業成績や会議の3分の2を超える状態を、「社長の経営独禁法違反」と呼んでいます。

   あえて「違反」と呼んでいるのは、それが明らかに悪いことのほうが多いと思うからです。営業は社長営業から営業チーム営業に移行しないと企業の成長は見込めませんし、会議は社長中心から幹部社員中心に移行しないと次の世代が育たない、ということになりがちです。

   それでも創業社長やオーナー社長は、なかなか独占状態を手放そうとしません。それはなぜでしょうか。

   このことを社長方に直接たずねてみると、営業についても会議についても返ってくる答えは、たいていの場合が「自分がやらないとできないから」「自分がやらないと心配だから」「自分が話をしないと誰もアイデアを出さないから」というものです。

   大手電機機器メーカーの販売代理店として業績を伸ばし続けてきたW社。S社長は20数年前にサラリーマンから独立。起業し、地域人脈を十二分に活用した社長営業で東日本指折の代理店成績を残してきました。

   名ばかりの営業部隊はあるものの、彼らの仕事の大半は社長が道筋をつけてきた商談のフォローと事務処理です。まさしく、営業の独禁法違反状態。社長の口癖は、「自分のマネをしろと言っているのに、誰ひとり育たない」です。

   以前、たまたま同席する機会をいただいた幹部会議においても、社長のひとり舞台は同じでした。一方的に幹部を叱咤する話を投げ続ける、会議メンバー個別に意見を求めない、「他になければ終わりにする」と一方的に会議を終了させる、など。堂々たる独禁法違反が展開されていました。

   S社長は、どこにでもありがちなオーナー社長タイプであると言えます。

オーナー社長はものすごく心配症なもの

   一方で、対照的な経営姿勢のオーナー社長もいます。IT関連コンサルティングを生業とするC社のF社長。社長は営業活動をしてはいるものの、いち早く営業部隊をつくり、今や社長営業で稼いでいる比率は1割に満たず、年々下がる一方です。

   また会議も、取引先の上場企業に習ったというやり方を導入。主要幹部を執行役員に指名して議題を持ち寄らせ、合議制を旨とした執行役員会議で決定する方式をとっています。C社は事業内容が時流に乗っているという点はありますが、このような社長の経営独占度合いの低下により、効率的な経営に拍車がかかって加速度的に業績を伸ばしているのです。

   各部門長も着実に育っています。その様子は本当に素晴らしいと見ています。多くのオーナー企業が先のW社のような、社長の「経営独禁法違反」状態から抜け出せずにいるのに、C社のF社長にはそれができたのか。私の問いかけに対して、社長の答えは実に明快でした。

「オーナー社長というものは、たいていものすごく心配症なのですよ。自分の会社という意識が強いですからね。『売り上げが落ちちゃうのじゃないか』とか、『しっかり経営しないと、銀行から見捨てられはしないか』とか。究極は、『自分の会社が潰れてしまわないだろうか』です。私もそうですが、その心配事をどう捉え、どう対処するか、その違いによって対応が変わってくるんじゃないかと思います」

社長こそ、「働き方改革」が必要です

   そう言ってF社長が指摘したのは、「実力のある経営者や、あるいは自分の実力を過信している経営者は、自分でやった方がうまくいくだろうと考え、とても心配で人任せにできないのではないか」ということ。

   一方のF社長は、「自分の実力に自信がないから、社員に営業を任せた方が稼げるんじゃないかと思うし、皆の意見を聞いたほうが自分に思いつかないいい意見が出るんじゃないか、と思う」のだと言うのです。

   多くのオーナー経営者は、「自分が社内で何事も一番できるから、トップに座っているのだ」という思い込みや、「周囲から意見を出されて自分の威厳を傷つけたくないから、意見を求めずに一方的に上から目線で話をする」というトップのプライド的な考えを、心のどこかに秘めているのかもしれません。

   F社長の話を聞いて、多くの企業ではオーナー経営者の心配症やプライドの裏返しが、社長経営の独禁法違反をつくり出しているように思えました。

   F社長はさらに興味深いひと言で、私の質問への回答を締めくくってくれました。

「社員の皆ががんばってくれるから、私は定時に帰ることも多く休暇もたくさん取りますし休日出勤もまずありません。私の考えでは、今の時代働き詰めや休日返上の社長はカッコ悪い。社長が率先して自身の働き方改革をすることが、業績が伸び社員が育つ近道かもしれません。働き方改革をすれば、社長独占経営ではとても回らなくなりますからね」

   「社長独占経営」から「社長の働き方改革」へ。この考え方こそが、最終的には多くのオーナー企業が悩む「人を育てる」カギを握っているのかもしれません(大関暁夫)。

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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