歩いて疲れて、1日7000円の「夢の国」! 大人になってわかった父の気持ち

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いくら探してもいないミッキーマウスに気持ちはどんより

   いよいよディズニーランドを訪れる日になった。関東にある母の友人宅に前泊したのだが、そこで早速、私と妹は出されたデザートをめぐり、「どちらがチョコケーキを食べるか」というくだらない理由でケンカして、母にこっぴどく叱られた。

   「こんな旅行先まできてケンカするんじゃない!」

   母の友人は笑って許してくれたが、心の中では「うるさいガキどもだな」と毒づいていたかもしれない。ギャーギャーわめく、2人の小学生の相手をするのは、今の私だったら結構イヤだ。

   おまけに、翌日訪れたディズニーランドは雨であった。3月の終わりで、まだ寒い。夢の国でも、どんよりとした曇り空に雨が降って肌寒いことがあるのだとその時、なんとなく思った。ステージで踊るミッキーマウスたちも、心なしかテンションが低いような気がする。

   園内を歩いてもミッキーマウスやミニーマウスとは出会えず、大して好きでもない犬のキャラクターと記念撮影した。私はミッキーマウスと写真を撮りたかったのに、いくら歩いてもいないのだ。仕方なく私は、ミッキーマウスの形に整えられた植え込みの横で同じポーズを撮り、カメラに収まった。

   ただの草の横で、ぎこちない笑みを作る姉妹。あまりうまく笑えておらず、後に家族のアルバムに貼られても、あまり嬉しくなかった1枚である。

   とにもかくにも、雨で散々だったが、あとに泊まったホテルでは、母に買ってもらったスケッチブックと色えんぴつでシンデレラ城を描くなどして楽しみ、そこそこいい思い出になった。

   あれから18歳になるまでに、2度ディズニーランドを訪れ、そのたびに全力で楽しんだが、大人になった今、もう一度訪れたいかと問われればノーだ。

   いまや7000円を超えるチケット(1DAYパスポート)を購入し、1日人混みを歩き回って、好きでもないキャラクターとたわむれることに意味を見いだせなくなってしまった。

   子どもの頃は、「意味」とか「コストパフォーマンス」とか、面倒なことを考えなかったから「夢の国」に耽溺できたのだ。これが「大人になる」ということなのか、それともただ私が冷めてしまったのか。

   今となってはあのとき、「どうして好きでもない着ぐるみがいる人混みへ行かなければならないのか」と、旅行に不参加だった父の気持ちが、痛いほどわかるのである。(北条かや)

北条かや
北条かや(ほうじょう・かや)
1986年、金沢生まれ。京都大学大学院文学研究科修了。近著『インターネットで死ぬということ』ほか、『本当は結婚したくないのだ症候群』『整形した女は幸せになっているのか』『キャバ嬢の社会学』などがある。
【Twitter】@kaya_hojo
【ブログ】コスプレで女やってますけど
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