発明家社長は気づいている! 技術系企業がハマる「タコツボ化」の罠

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   以前、会社のお手伝いをしたS社長から、久々のご連絡を電話でいただいたのは今年(2017年)の元旦のことでした。

   S社長とは銀行時代からのお付き合いで、ご本人は経営者である前に一大発明家であり、過去には自身が発明した製品で世界中のIT機器メーカーとの取引を獲得し、国内では自社を上場させるなど、一度は大成功を収めました。

  • リーダーシップが問われる場面とは……
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「餅は餅屋」を心得るべし

   ところが、7~8年前の急激な円高の煽りを受けて財務状況が圧迫されるなか、大口受注先からのニーズ変動に翻弄され他社資本を受け入れざるを得なくなり、最終的には知財ともども身売りをするという無念に至ったのです。

   今回、社長が私に連絡を入れたのは、新たな発明技術を軸にした「第二の起業」が波に乗り始めたことから、「誰かに組織管理の手伝いをしてもらいえないだろうか」と悩んでいたところに私からの年賀状を見て思いついたのだと。

   それと言うのも、前回の反省として、発明家であり技術者であるS社長が経営者として組織管理に気を奪われたことがいけなかったのだ、と思ったからだと言います。

「今回は技術に専念したい。もっと言えば、現場に専念したい。餅は餅屋という言葉があるでしょう。私は前回の会社経営で、組織の管理や運営といった企業マネジメントは私の専門ではないと改めて痛感したのです。会社を手放さなくてはいけなくなった理由も、そこにあったのではないかと。ならば、その部分は餅屋たる、あなたのような方にお願いして、私は自分の餅をついたりこねることに精を出すべきじゃないのかと、そう思ったわけです」

   2016年に話題になった書籍に、「サイロ・エフェクト ~高度専門化社会の罠」ジリアン・テット著)というものがありました。ここで取り上げられたサイロ効果(Silo effect)とは、牧場サイロのように中に入ってしまうと外が見えず、その中が世界のすべてであるかのような思考や行動をとってしまい、しばしば大きな間違いを犯してしまうことを指しています。

あのソニーも陥った

   本書ではサイロ効果のわかりやすい具体例として、ソニーのウォークマン事業の失敗例をあげています。事業部制を敷いていたソニーは、ウォークマンで大成功した事業部が自部門の方針と実力を過信して、他の事業部や経営者の意見をも軽視して暴走。結果として、その後の事業展開にことごとく失敗し、世界のデジタル音楽市場では後発のアップル社に大きく水を開けられることになってしまったというのです。

   サイロ効果は技術者の世界では特にありがちなことで、この言葉自体は新しいものの、何十年も前から研究の「タコツボ化」として指摘されてきたことでもあります。

   技術の世界は、研究が進めば進むほど専門分野以外に興味を持たず、その研究者や開発者はタコツボの中に閉じこもった状態になりがちなのです。そのため技術系企業では、その間を繋ぐ役割の人材を置いて各部門に常に外部環境との接点を持たせ、行き過ぎたタコツボ化、すなわちサイロ効果を回避する工夫もしなくてはいけないのです。

   S社長の前回の失敗要因は、まさにこのサイロ効果にありました。事業拡大に伴う組織の細分化により、主要な開発事業部は自己の世界に閉じこもるようになり、世界の最先端を行く大口クライアントが、消費者を見据えて日々刻々変化をさせていった微妙なニーズの変動に追いつけなくなっていったわけです。

技術者と経営者、「1人2役」のバランス

   S社長は、「サイロ効果」や「タコツボ化」という言葉こそ口にしませんでしたが、実態としてそこに気が付いていました。

「技術開発者である私がもっと現場に密着して、営業も含めた各部門間のつなぎ役をしなくてはダメだと思うのです。企業マネジメントに時間と労力を奪われてしまうのは間違いなくマイナスです。なので、その部分は他の誰かに任せたい。そういうことなのです」

   効率的な管理のためによかれと思ってつくったにユニットが、タコツボ化して周囲が見えなくなる。そんな思いがけない盲点が存在し、そのタコツボ化防止のために現場リーダーが動く。「21世紀型のリーダーシップとは、リーダーが『メンバーに対して』何かをすることではなく、むしろ『メンバーの間で』働くことである」と、近年米国のリーダーシップ論で言われているところでもあり、S社長が考える新会社での社長の立ち位置は、まさに21世紀型リーダーシップに叶ったものであると言えそうです。

   現在、社長とは何度かのミーティングを経て、現状と新事業のめざすところなどが見えてきた段階にあります。技術者たる社長のリーダーシップが、前回と同じ轍を踏まないために、現場のつなぎ役としての重要性を帯びていることは十分理解しました。

   しかし、オーナー企業におけるスタートアップ期の求心力としての経営者的立ち位置もまた、前進には不可欠な要素でもあります。そのあたりのバランスをいかに上手にとりながら「第二の起業」を軌道に乗せていくのか、その点に腐心しながら私なりのご支援をしていきたいと思っています。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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