技術者と経営者、「1人2役」のバランス
S社長は、「サイロ効果」や「タコツボ化」という言葉こそ口にしませんでしたが、実態としてそこに気が付いていました。
「技術開発者である私がもっと現場に密着して、営業も含めた各部門間のつなぎ役をしなくてはダメだと思うのです。企業マネジメントに時間と労力を奪われてしまうのは間違いなくマイナスです。なので、その部分は他の誰かに任せたい。そういうことなのです」
効率的な管理のためによかれと思ってつくったにユニットが、タコツボ化して周囲が見えなくなる。そんな思いがけない盲点が存在し、そのタコツボ化防止のために現場リーダーが動く。「21世紀型のリーダーシップとは、リーダーが『メンバーに対して』何かをすることではなく、むしろ『メンバーの間で』働くことである」と、近年米国のリーダーシップ論で言われているところでもあり、S社長が考える新会社での社長の立ち位置は、まさに21世紀型リーダーシップに叶ったものであると言えそうです。
現在、社長とは何度かのミーティングを経て、現状と新事業のめざすところなどが見えてきた段階にあります。技術者たる社長のリーダーシップが、前回と同じ轍を踏まないために、現場のつなぎ役としての重要性を帯びていることは十分理解しました。
しかし、オーナー企業におけるスタートアップ期の求心力としての経営者的立ち位置もまた、前進には不可欠な要素でもあります。そのあたりのバランスをいかに上手にとりながら「第二の起業」を軌道に乗せていくのか、その点に腐心しながら私なりのご支援をしていきたいと思っています。(大関暁夫)