その23 エスカレーターの片側空け 【こんなものいらない!?】

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   地下鉄のエスカレーターを、若い男が勢いよく駆け下りてきた。

   どん、どん、どんと音が響く。エスカレーターは片側に一人で立っている人のほか、並んで立ち話をしている人も何組かいて、やや混んでいた。

  • エスカレーターで歩く人、走る人はあとを絶たない。
    エスカレーターで歩く人、走る人はあとを絶たない。
  • エスカレーターで歩く人、走る人はあとを絶たない。

エスカレーターで急ぐ人は格好つけたがり?

   男はそれらの間をすり抜けていく。体と体がぶつかったりする。肩を押された同年配の男が声を上げた。

「なんで走るんだ? びっくりさせるなよ」。

   だが、「急いでるんだ」と、男はなおも駆け下りていく。

   別の若い男が声を荒げた。「急ぐんなら、階段を走ればいいじゃないか。エスカレーターを壊すなよ」。

   「一触即発」の感じになったが、これは日本での話ではなく、中国・北京でのこと。中国人の知人が教えてくれた。中国でも、エスカレーターは急ぐ人のために片側を空けるのが一応の「マナー」とされているが、徹底していないようである。

   ひるがえって日本では、これがなぜか徹底している。発祥は欧州ともいわれるが、大阪圏では左側空け、東京圏では右側空けが普通である。

   だが、片側空けは何かと問題がある。脊髄腫瘍の手術で、首から下にまひのある女性の話が朝日新聞(東京版)に載っていた。彼女はエスカレーターの左側のベルトがつかめない。右側に立つと安定するが、それでは「迷惑をかけるから」と、無理して左側に立っている。ヒヤヒヤの毎日である。

   片側を空けておくのは、急ぐ人のためというのだが、僕には疑問である。駆け上がり駆け下りてエスカレーターを離れたあとも、急ぎ足の人はそうは見かけない。エスカレーターでは格好つけて、忙しい振りをしていたのではないか。

岩城 元(いわき・はじむ)
岩城 元(いわき・はじむ)
1940年大阪府生まれ。京都大学卒業後、1963年から2000年まで朝日新聞社勤務。主として経済記者。2001年から14年まで中国に滞在。ハルビン理工大学、広西師範大学や、自分でつくった塾で日本語を教える。現在、無職。唯一の肩書は「一般社団法人 健康・長寿国際交流協会 理事」
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