ジェイ・キャストの大森千明前社長がお亡くなりになられたとのお話をうかがいました。
今から6年ほど前にJ‐CASTニュースで連載を始めさせていただいた折の編集長であり、私がいくつかの執筆テーマを提示させていただく中で、「今一番ほしいのは営業の話」と、一発回答で明確なご要望を頂戴し、執筆をスタートさせていただきました。
営業はステップをしっかり踏むことが大切
執筆にあたり、大森さんは「高度成長期の日本は、作れば売れるという営業不要の状況下で発展を遂げてきました。しかしバブル崩壊後の低成長経済下では、もう二度と高度成長やバブル景気のような「特需」がないと考えると、根本的に世の経営者も働く若者も営業の重要さと真剣に向き合わなくてはいけない」と、熱い思いを語ってくれました。
どのようにしたら社長営業メインの営業体制から脱却できるのか、営業にも他の業務同じような教え方のルールはあるのか、実績の上がらない営業マンをいかに指導するべきなのか等々、思えば今も私が耳にする中小企業経営者のお悩みで最も多いものは営業に関する事柄であります。
また、世界に通用するような技術力や開発力を持った企業であっても、大きく成長できない理由は大抵、営業力のなさ、社長営業からの未脱却、営業スキーム未整備の社内体制にあったりするのも事実です。
これらの事柄は、まさしくあの時の大森さんのご指摘を裏付ける形になっているのではないでしょうか。
大森さんからいただいた注文として、「フォーマット化とかマニュアル化とかが難しいと思われている営業の世界で、誰もが真似できそうな事例や取り組み方を盛り込んでもらえないだろうか」というものがありました。
私はご要望にお応えすべく、それまで経験した、あるいは見てきたさまざまな現場での成功営業から共通要素を導き出し、「営業は売り急がずステップをしっかり踏むことが大切」を強調させてもらいました。
売り急げば押し売り営業になる。とはいえ、訪問でいたずらに時間を浪費するだけなら御用聞き営業を免れ得ない。さまざまな業種のルート営業、新規営業問わぬ優秀な営業担当者に共通するものは、「準備→親交→聞き取り」を経てポイントを外さないセールスをする手順だったのです。
事前調査、カットイン、ヒアリング、プレゼンテーション、クロージング、そしてプラス1としての継続アプローチまでをまとめた「営業の5ステップ+1」という考え方は、営業の連載企画を練り込む中で現場体験を整理し生まれたものでした。
連載の必要に迫られて整理されたこの理論と、それを受けた連載執筆のおかげで、営業に関する講演登壇や新たな執筆のご依頼を随分たくさんいただくようになりました。
また、その後クライアント先の現場で営業チームの指導をさせてもらう場面でも、整理された営業ステップ理論が提示できることで、「わかりやすい」「取り組みやすく、成果も出しやすい」と大変好評をいただいてもおります。
「営業必勝の法則」という未完の宿題
企画段階でもう一つ、大森さんからの要望としてあったのが、「最終的に何か、営業必勝の法則みたいなものまで導き出せたらおもしろい」というものでした。
こちらは、連載の中では法則にまではまとめきれず、未完の宿題になってしまいました。しかしながら、連載で書かせていただいたいくつかの原稿のエッセンスをさらなる吟味を重ねて結論づけ、連載終了後に「成果の法則」としてまとめることができました。
「営業成果=営業活動量×営業知識量」という法則がそれです。これも、ずっと引っかかっていた未完の宿題と向き合い、連載で取り上げた事例や現場の優秀な営業担当者の行動パターンを分析する中で、営業はどこまでいっても行動量と情報を含めた知識量がモノを言うという真理を、法則として整えたものでした。
「必勝法則にまとめられないか」という常に読者を意識された大森さんの発想のおかげでたどり着いた、営業コンサルタントとしての私にとってのひとつの大きな成果であるのです。
理論的なものが整理できると、あとはその理論に沿った行動を現場で検証を繰り返せばよりブラッシュアップされた強固なものになっていきます。今や私の商売道具として欠かすことのできない「営業の5ステップ+1」と「営業成果の法則」は、大森さんにいただいた連載企画取り組みに際してのヒントなくして確立はされ得なかったと、今改めて実感するところであります。
私は大森さんとは決して親しく付き合わせていただいたわけではありませんが、ひょんなことからお目にかかる機会をいただき、その流れでWEBでの初めての連載仕事をいただく幸運を得ました。
そしてわずかなコミュニケーション機会の中からも、一流ジャーナリストとしての鋭い視点から得難いヒントを頂戴したことは、私のとって大切な財産であると思っています。大森さんの訃報に接し、改めてそんなことを考えさせられました。
大森さん、ありがとうございました。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。(大関暁夫)