もしかして分不相応だったの? 「まるでお城」の新居に震えた小3の春

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得意満面に「新築費用」をべらべらしゃべる

   新築と引越しにともない、転校した先の小学校では、新しくできた友人がすぐに遊びに来た。

   「かやちゃん家って、超広い!」と賞賛する彼女らを前に、得意満面の私は、「この家、○坪なんだって」と披露し、「すごいね~、広い!」とさらに賞賛され、天狗になった。

   友人のひとりが「この家、いくらかかったの?」と聞くので、私は両親にそれとなく尋ね、翌日には「ン千万円かかったんだって! しかも、1回で払ったんだよ!」と、恥ずかしげもなくわが家のキャッシュフローを披露したものである。

   「え~、ン千万円!? 1回で払ったの!? 金持ちだなぁ!」あっという間に、クラスで話題になった。友人の中には、家族に確認したうえで、「ン千万円はすごいことだ」と再認識したことを知らせてくる者もいた。

   そのうち私は、自慢しすぎて不安になってきた。話題になるくらいだから、うちの新築費用が高いのは確かなようだ。しかし、両親にそこまで経済力があるとも思えない。新居を一括で購入したために、我が家は一文なしになったのではないか。だとすると、自慢したクラスメイトたちに合わせる顔がない。

   1度、考え始めると、不安で夜も眠れなくなった。両親が私を気遣って言わないだけで、本当はお金がなく、明日の食事にも事欠くような状態かもしれない。借金地獄に陥っている可能性だってある。考え詰めたあげく、ついにある日、勇気を振り絞って母親に聞いてみた。

「うちって、家を建てたから、お金がなくなったの?」

母はきょとんとした顔をしている。8歳の娘が金銭的な不安で追い詰められているなんて、まるで信じられないという感じだ。

「大丈夫だよ、貯金しておいたお金で払ったから、一時的にお金はなくなったけど、また貯めればいいんだから、安心しなさい」

な~んだ......大丈夫なのか。母が予想に反して、ニコニコと答えてくれたので、私は心から安堵した。その後は再び、新築費用をクラスメイトに自慢する日々に戻ったのだが、次第に話題にもならなくなったので、自慢するのがバカらしくなって、やめた。

   今でも母は、当時の私がものすごく不安そうに「うちにはお金がない」とブツブツ言っていたのを覚えているという。恥ずかしいことほど、忘れてくれないらしい。(北条かや)

北条かや
北条かや(ほうじょう・かや)
1986年、金沢生まれ。京都大学大学院文学研究科修了。近著『インターネットで死ぬということ』ほか、『本当は結婚したくないのだ症候群』『整形した女は幸せになっているのか』『キャバ嬢の社会学』などがある。
【Twitter】@kaya_hojo
【ブログ】コスプレで女やってますけど
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