小学3年の春、私の家族は石川県の田舎に引っ越し、そこで大きな家を建てた。
それまで、県中心部にある狭いアパートに住んでおり、その狭さと古さが不満だった私は、ピッカピカの一戸建てへの引っ越しを待ち望んでいた。いざ、お城のように豪華な(と幼心には感じられた)新居を見たときは、踊り出したいような衝動に駆られたものである。
仮住まい「かやの部屋」からの華麗なる転身
ところが、同時に9歳の頭に浮かんだのは、「こんなに大きな家を建てて、わが家の財政状況は大丈夫なのだろうか」という不安であった。
新居で初めて、家族で夜を迎えた日のことは今も覚えている。家族4人で歯を磨きながら、「すごいね」「全部新品だよ!」と当たり前のことを言い合い、ふだんは喧嘩ばかりしている兄弟とも、「リビングが広くて、お父さんとお母さんがどこにいるかわからないね」「いくつ部屋があるか、数えよう!」と、新居の探検に興じた。
なにしろ、それまでは、築30年、2部屋と台所しかないアパートに家族4人が住んでおり、子供部屋どころか勉強机さえギリギリ置けるかどうかの狭さだったのだ。1人の部屋が欲しくて私は押し入れにダンボールを持ち込み、そこへお気に入りのシールなどを貼り、「かや」と名前を書いて、仮住まいとしていたほどである。そうまでして手に入れたかった1人部屋が、新居で実現したのは最高にうれしかった。
新しい子供部屋では、カントリー調のおしゃれなベッドが私を待っていた。ダンボールハウスからカントリーハウスへと、華麗なる転身を遂げたのだ。誇張でなく、自分がお姫様になったと思った。わけもなく走り出したいワクワク感にかられる。