経営者、管理者に求められる力として、一般的には「進める力」とか「攻める力」というもがクローズアップされがちなのですが、じつはそれと並んで、いやむしろそれ以上に求められる力があります。
「受けの強さ」などと言う言葉で表現されることもある、「受ける力」がそれです。
マスコミに怖気づく、2人の社長候補
もう随分前の話になりますが、ワンマンかつ強気の経営姿勢で知られた上場製造業Y社のO社長。イケイケドンドンの姿勢で、業績を伸ばしつつ業容を拡大し、一時期は業界の風雲児とうたわれる存在でした。
ところがある時、新聞沙汰になるような突然の不祥事が発生しメディアの厳しい追及に追い回されることに。
夜討ち、朝がけの強硬な取材攻勢を受けたものの、これを平時の新聞記者対応の延長で「ガタガタ騒ぐと、出入り禁止にするぞ」的な姿勢で強気に突っぱねました。
すると記者連中の大逆襲にあって、「経営姿勢に難あり!」「社長の人間性が問題!」などとあることないことを散々書かれ、社会的批判の集中砲火を浴びることになったのです。
こうした連日の批判報道に、強気なO社長も精神的に参ってしまい、家から一歩も出られない状況になりました。新聞、雑誌、さらには一部テレビを巻き込んでの大騒動により大きなショックを受けて、心身症を患い入院するとともに遂には辞任の意向を示すことで収拾をはからざるを得ない事態に至りました。
後任の社長候補は、周囲の誰もが知る同期のライバル副社長と専務の2人。しかし両者とも、「この局面では製造部門一筋の私には荷が重い」「O社長の後を営業畑の私が継ぐなど恐れ多い」と、社長就任を固辞するという思わぬ展開に。表向きの理由はともあれ、恐らくは不祥事知らずでこれまで来た温室育ちの風土もあり、両者ともあの強気なO社長をして精神的に参らしめたマスコミの攻勢に怖気づいたのでは、というのがもっぱらの見方でした。