クライアントの小売チェーン運営会社の店長会議で、T社長の怒りが3人の店長に対して次々爆発しました。
「フロアの植木が根腐れして枯れているものを、なんでいつまでもほっておくんだ!」
「停電でヘルプ要請を本社にしておきながら、結果どうなったのかの報告をなぜしない!」
「10日まで自店の実績が全然上がっていない状況で、よく平気な顔をしていられるな!」
怒られた店長たちは神妙な顔で、「すいませんでした」と謝るばかりです。
「原因はマンネリ」社長はそう言うけれど......
「謝れと言っているんじゃない。なんでそうなったのかを聞いている」
しかし、この質問には誰ひとりとして答えられる者はありませんでした。ただ、ただ「すいませんでした」を繰り返すばかりでした。
会議が終了してから、社長と二人で話をしました。するとこんな質問が。
「揃いも揃ってどうしてああいうことになるのか、本当にわからない。理由を教えてほしいものだ」
私は感じたままに答えました。
「私が思うに、3人の問題行動の理由はそれぞれ『手抜き』『配慮不足』『惰性』です。この3つの事例の根底には共通項がありそうです。それは、店長としての緊張感の欠如という根本原因があるのではないかということ。社長はそれを怒るだけでなく、どうして緊張感が欠如しているのか、そこを考えて対策を講じないといけないでしょうね」
私の話に社長は、「原因はマンネリだな」と、ひと言。
たしかに支店、営業所などの出先では、責任者が慣れてくるとどうしても緊張感に欠けて問題行動が現れるということは、よくある話です。40代以上のある程度組織経験を積んだ者が支店長を務める銀行などと違って、小売店や飲食チェーンでは30代あるいは20代でも店長に任命するケースは多く、慣れからくる緊張感の欠如の可能性は否定できないでしょう。
「となると対策は、異動の頻度を早めるとか、私が可能な限り頻繁に店舗回りをするとかかね?」と、社長が続けます。
「異動を定例でおこなうとか、時々社長が現場に顔を出すことは大切ですが、たとえば部下が上司を評価する360度調査のようなものを定期的に実施して、常に自分は見られているのだという意識を持たせれば、相互牽制も働きある程度の緊張感が保てるとは思います」
私はそんなセオリー的は話をしてはみたものの、毎日のようにあれこれ現場に社長の指示が飛び、日々厳しい管理下で緊張にさらされていると思しき当社の場合、どこかそれだけではシックリこない気がしていました。
立場上、社長にはなかなか言えない
とりあえず話を終えて社長室を出ると、まだ会議室に残って情報交換をしている数人の店長たちを見つけました。叱責を受けた3人の店長の姿はありませんでしたが、彼らの話を直接聞いてみることにしました。
「今日の会議で、3人の店長が社長から厳しく叱責されたけれども、皆さんの受け止め方はどうですか。同僚店長の目から見て、あの3人がやはり気が緩んでいたと思うか、それとも自分を含めて誰にでもありうることなのか」
皆が異口同音に口にしたのは、「我々も同じです。たまたま今日は彼ら3人が社長に怒られただけのこと」という回答。「なぜ、そうなってしまうのだろうか」と質問を向けてみると、これまた全員一致で「忙しすぎる」という答えが返ってきたのでした。
そして、それは店長を任された以上、社長にはなかなか言えないことなのだと。
緊張感を損なう原因は?
忙しさが緊張感を吹き飛ばしてしまう。そういうことも確かにありうると、皆の真剣な眼差しを見て思いました。
たとえば、自分が次の日曜日に何千人という大勢の人前で話をしてくれと頼まれたとしたら、人前で話すことを仕事としていない人なら、間違いなく緊張するでしょう。当日まで、毎日のように緊張感が持続して、日に日にそれが増していってしまってもおかしくありません。
しかし本番までの数日がとにかく多忙だったら、目の前の仕事をこなす事に追われて、肝心の日曜日に対する大きな緊張は感じることはないのではないかと。
多忙すぎることも、じつは緊張感を損なう大きな原因のひとつになっているのではないか、目からウロコが落ちた瞬間でした。
自らの右腕とも言うべき幹部社員たちが日々どの程度忙しいくしているのか、経営者は自分基準でない見方でそれを把握しておかないと、この多忙性緊張感欠如が思わぬ重大な落とし穴にもつながるかもしれないのです。
店長たちの話を聞いて、シックリこなかったものがスッキリしました。T社長には現場実態をもう少し入念に調べたうえでこの問題を報告し、店長たちが緊張感を損うほどには多忙にならない配慮も求めたいと思います。(大関暁夫)