日本生産性本部が「2017年度 新入社員『働くことの意識』調査」の結果をまとめ、公表しました。2017年の新社会人は、「仕事よりもプライベートを重視する姿勢」がかなり強く出たようです。
調査項目のうち、「同僚、上司、部下と勤務時間以外はつきあいたくない」「上司や同僚が残業していても自分の仕事が終わったら帰る」「デートの約束があった時、残業を命じられたら、断ってデートをする」の項目にYESと答えた比率が、それぞれ前年比10.1ポイント増、9.9ポイント増、6.1ポイント増となっています。
新人のプライベート優先に「けしからん」!
電子部品製造H社のS社長がこの記事を読んで、「今の若い奴はけしからんな」との感想を口にしていました。どう「けしからん」のか、少しつついてみました。すると......
「だってそうでしょ。学生気分のまま社会人になってしまった、その一言に尽きますよ。私の時代なら、どれもこれもドヤされますね。こういう連中と仕事をしなくちゃいかんのかと思うと、思いやられます。うちは幸い新卒を採用していないけれど、いずれは彼らが中途で入社してくるかもしれないわけで。大変な時代になったものだと思います」
なるほど、社長は60代半ば、私は50代後半。私が受けてきた社会人教育からすれば、確かに社長の言うことはわからないではありません。しかし、果たして私が新社会人当時どう思っていたのだろうかと正直ベースで思い起こしてみると、むしろ今年の新社会人の考え方に近いのではないか、そんな感じもしています。
これはどういうことか――。学生から社会人になったばかりの人間が、そう簡単にプライベートを後回しにして会社重視の姿勢にはならないのは、何も今に始まったことではないということなのじゃないかと。
昔は世間的にそういう本音を言うことがはばかられる風潮があったのだけれど、本音で言いたいことを言える時代になっただけの話なのじゃないか、そんな風に思うのです。
その背中を押しているのが、世間を賑わせている時短、ワークライフバランスの流れであり、「働き方改革」の流れではないのかとも。政府はこの流れに乗って、今年2月からは毎月最終金曜日をプレミアム・フライデーと称して15時終業を推奨するなどの具体策を講じてもいます。
そう考えると、この4月に社会に新たな一歩を踏み出した新社会人たちは、これら今の世の中の流れを十分に理解したうえで、時世にそった回答をしたのに過ぎないのではないか、と思えるのです。
社長、「ワークライフバランス」はわかります?
S社長が言う「けしからん」が、「言いたいことをハッキリ言いおって」と言う意味ならまだ納得なのですが、その先の受け答えから判断して「今の若者の『考え方』がけしからん」と言っているのは明白です。
そうなると、それは今始まったことじゃありませんよ、と言うことになりそう。すなわち、「これからこういう連中と仕事をしなくてはいかんのか」と思って注意すべきは、彼らの仕事に対する考え方ではなく、彼らにハッキリモノを言わせている今の風潮でこそあるべきではないのか、ということになりそうです。
それは、S社長がまだまだワークライフバランスやら「働き方改革」といった今の風潮に対する理解が乏しい、ということに。
昔から中小企業の経営者にありがちなのが、世間で話題になっている企業がらみの出来事や決め事は、たいていは大企業のことであり自分たち中小企業には関係ない、という考え方です。
少し前の時代であれば通用したかもしれないこの考え方は、今の時代ではとりわけ少しでもコンプライアンスに関わるような問題では通用しない、ということを意識しないと思わぬ痛い目に遭いかねないのです。
大げさに申し上げれば、今回のS社長の「新社会人けしからん」という考え方だって、このままでいると大きなリスクがあるかもしれません。今後中途で入社する人ばかりでばかりでなく、今現在、会社で働く社員たちまでもが続々と「わが社は世間の常識レベルから見て、就労環境が悪いので辞めます」と言い出しかねない、という懸念を否定できないからです。
S社長はごくごく標準的な中小企業経営者だと思います。社長は以前、こんな話もしていました。
「あのプレミアム・フライデーってなんだい。最終金曜日に社員を早く帰らせろだと。そんなもの大企業でしかできないだろうに。わかってないな~、政府は。国内全企業の99%以上は中小企業なんですよ。どこ向いてやってるんでしょう」
中小企業経営者が、世間で話題になる企業がらみの出来事や決め事を、自らの問題として捉えられないのは、経営者の責任ばかりではなさそうです。政府の企業向け施策でのひと工夫も必要なのではないかと、思わせられるところでもあります。(大関暁夫)