創業者、二代目の「教え」を忠実に守った三代目
Yさんの話を聞きつつ考えてみたのは、過去に私の周囲で一敗地にまみれてしまった二代目、三代目経営者たちのこと。「不易」「流行」のバランスを欠いていたのかもしれない、と思いあたることがありました。
工業機械設計製造のI社は、戦時中に満州で創業したという社歴70年超の老舗企業で、N社長はオーナー家の三代目です。戦後復興の波に乗って爆発的に売り上げが伸び、一時期は従業員150人以上を抱えて上場も視野に入るほどの優良企業に成長しました。
しかし、満州(現・中国東北部)からの引き揚げで痛い目にあったという創業者の教えに「借り入れは努めて慎重にせよ」との方針があり、二代目はそれをいつしか「借入は悪」との理解に転化させ、高度成長期の事業拡大チャンスにも銀行借り入れの売り込みを断り続け、自己資金で賄える範囲での事業に終始しました。
その跡を受け、父の背中を見て育った三代目は、バブル崩壊後の低成長期におけるビジネス転換期においても、あくまでその教えを忠実に守り、内部留保を減らしても借入はしないという姿勢を貫きました。
その結果、「投資」という考え方を理解できずに、新たな時代の流れに乗ることなく時代から取り残された設計・製造業として、今は数人の所帯で細々長年の取引を頼りになんとか事業を続けている、そんな状況に至ったのです。
必要以上に「不易」に傾きすぎて「流行」を失った、そんな経営が導いた道であるように思えます。