仕事柄、さまざまな会社の会議に同席させていただく機会があるのですが、大半の企業は会議ベタと言っていい状況にあると思います。
よくある会議のタイプは、社長の独演会タイプ、しんみりお通夜タイプ、横道脱線タイプ。なかでもオーナー系の中小企業に多いのは、社長独演会タイプです。ほぼ社長一人が命令口調や詰問調で話しまくる。社員からの意見はほとんど出ない。「会議」という名の独演会、あるいはお説教タイム、そんな感じさえします。
成功している企業には「心理的な安心感」がある
では、なぜ意見が出ないのか――。「意見を言ってつぶされて、皆の前で恥をかくのは嫌だ」「余計な意見を言うと、かえって責められそうだ」といった思いがあって発言することを躊躇させているケースが、そのほとんどではないでしょうか
。「意見を言う → トップに叱責される → 皆の前で恥をかく → そうならないために発言を控える」。そんな思考の流れが、会議で意見を出させない参加者たちを多数生み出していると感じています。
Googleの米国本社は昨年(2016年)、成功するチームに関する大々的な社内調査を行いました。この報告をまとめた「完璧なチームはいったい何が違うのか?」というレポートが、ニューヨーク・タイムズ誌に掲載されています。
Googleは社内180のチームの行動を分析し、成功しているチームのパターンを探り出そうと試みました。分かったことは、成功しているチームに共通していたのが「心理的な安心感」が存在する状態だったことです。
そして、それを示す共通する行動としてあげられていたのが、リーダーを含めた「チームの全員が、チーム内で皆同じくらいの量の発言をしていること」だったのです。
これはじつに興味深い調査です。裏を返せば、発言する人間が圧倒的に偏っているチームは「心理的な安心感」が薄いということになり、「成功とは言い難い状況」にあると言えるようです。
すなわち、一方的に話すメンバーがいるとその人からの叱責を恐れて「心理的な安心感」が損なわれ、他のメンバーが発言を控える。結果、発言がさらに偏ってしまう。私が見てきた多くのワンマン経営の企業の会議は、まさにこの状況にあると言えます。
さらに、この調査では「チーム内で皆が同じくらいの量の発言すること」をもたらすための要因が、「各メンバーが他のメンバー気持ちを思いはかる社交的な感度(social sensitivity)が高いこと」であったとも報告されています。
「各メンバーが他のメンバー気持ちを思いはかる社交的な感度(social sensitivity)」が高ければ「心理的な安心感」につながり、「チームの全員が、チーム内で同じくらいの量の発言」をすることになる。成功するチームはこうしてでき上がる、という流れです。
会議において、参加者の立場を考えず誰か一人が圧倒的に話す量が多い企業には「心理的な安心感」が存在せず、結果成功を遠ざけてしまう。多くのワンマン経営者には、耳が痛い話かもしれません。
歩み寄りは社長から
では、なぜ多くのワンマン経営者は、社員の気持ちを思いはかる、言い換えれば社員の立場に立ってものが考えることができず、一方的にものを言ってしまうのでしょうか。このことに関して以前、自他ともに認めるワンマン創業社長がおもしろいことを言っていました。
「相手の立場に立つということは、相手の立場を経験して初めてできるわけです。ビジネスシーンでは、自社が売る立場にも買う立場にもなるから、売る立場の時には買う立場に立ち、買う立場の時は売る立場に立って考えることができるのです。でも経営者は、サラリーマン経験者かサラリーマン社長でない限り、雇われの身という社員経験がないから社員の立場が分からない。社長をしたことがない社員が、社長の立場を分からないのと同じようにね。社長と社員の相互理解は、最も難解な会社経営の永遠のテーマですよ」
なるほど、オーナー系の社長にワンマン経営者が圧倒的に多いのは、確かにそんな理由があるのかもしれません。「社長と社員の相互理解は、会社経営永遠のテーマ」とは、言い得て妙ではありますが、それが以下に難解であろうとも、成功する組織のカギを握るのなら努力を試みる価値はあるはずです。
そのためには、まずどちらかが相手の立場を理解する努力をしなくてはいけないでしょう。となればやはり、社長から歩み寄っていくよりほかにないのかもしれません。
会議で社員から意見が出ない企業のトップの皆さん、毎度毎度自分が一方的に話しすぎてはいないだろうか、自分の言動が社員の「心理的な安心感」を奪っていないかだろうかと、まずは少しだけ社員の側に立って考えてみてはいかがでしょう。Googleの調査を参考にするなら、会社としての大きな成功のキッカケが、そこにあるかもしれません。(大関暁夫)