何年かぶりで、両親と旅行に来ている。場所は長野の上高地。宿泊場所はいろいろとあったものの、今までの家族旅行で1番高いのではないかと思われる、某高級ホテルだ。
父と母、そして娘の私で、素晴らしいおもてなしを堪能しているのだが、先ほど気づいてしまった。私がケチくさいのは、完全に「親譲り」ということに。
ホテルのアメニティを3人で使い回す
ホテルの部屋に入って、まずやることといえば、「風呂場付近におけるアメニティの確認」と、「ドリップコーヒーなど、無料飲料の充実度の検証」である。この2つが充実していると、一気に旅の満足度が上がった気になるから不思議だ。
今回泊まった上高地のホテルは、とにかくアメニティ類が豪華であった。ちょっとよさそうな瓶に入ったスキンケア化粧品が、男性用、女性用とそれぞれたっぷり用意されている。さらにはヘアケア、ボディケアグッズも豊富で、ビジネスホテルのそれとは比べものにならないほど素晴らしい...... と。
しかし、このような確認作業を真っ先に終わらせていたのは、私ではなく父であった。
部屋に入って、すぐに風呂場の確認作業へ向かった父は、「このボディソープとシャンプー、残りは父さんが持って帰るから、3人で1つしか開けないでおこう」と言い出したのである。
「そんなに持って帰ってどうするのか」と聞くと、「出張で安いビジネスホテルに泊まった時、このアメニティを使えるじゃないか」と言う。私とまったく同じ思考回路だ。久しぶりの家族旅行で、のっけから「蛙の子は蛙」。しかも、ホテルの歯ブラシについている「歯磨き粉」まで家族で1本を使い回し、残りを持って帰るというのだから、私をさらに上回るツワモノだ。
父は「コーヒーまで豪華だね」とのたもうた!
父が風呂場のアメニティを確認しているあいだ、私は負けじと無料飲料の充実度を調査した。宿泊した部屋には、緑茶、ほうじ茶、粉末タイプのコーヒーなどが置いてある。
ふむふむ、なかなかいいが、コーヒーがドリップタイプでないのがちょっと残念だ。と贅沢を言っていたら、テーブルの上に「税込み378円」と書かれた紙カップ入りのコーヒーが置いてあった。こういうのをうっかり飲むと余計なお金がかかるから、事前に宿泊メンバーへの注意喚起が必要だ。
風呂場から戻ってきた父が、そのコーヒーを見て「さすが高級ホテルは、コーヒーまで豪華だね」とのたまったので、私はすかさず「お父さん、それは有料だから、手をつけちゃいけないよ!」と注意した。
「本当だ......これ、有料なのか! しかも378円!? こんな小さな紙カップが!? ここじゃ、すべての値段が巷の2倍だね? いや2.5倍か!?」と感嘆する父を前に、私は得意げであった。危うく余計な出費が増えるところだった。
その後早速、父はティーポットに湯を沸かし、母が無料の緑茶を煮出して、持参した水筒に注ぎ、準備はOK。無料のお茶を入れた水筒を持って出かければ、「喉が渇いた」と観光地のバカ高い喫茶店に入らなくて済むし、自販機の誘惑も断ち切ることができる。すごい連携プレーだ。
価値観が似ている者同士だと、旅行はこんなに楽しいものかと思う。ケチはケチ同士で旅をするのがいいのだろう。なんの摩擦も起きず、贅沢する罪悪感もない。
今回の旅行は、祖父(父の父)がプレゼントしてくれたもので、両親と私にすれば「棚からボタ餅」のような感覚だった。今度は親孝行で、私が連れてきてあげようか、と密かに思ったが、自分にそんな財力があるはずもなく、まだまだ「ケチな娘」を続けるしかないのが、ちょっと残念だ。(北条かや)