父は「コーヒーまで豪華だね」とのたもうた!
父が風呂場のアメニティを確認しているあいだ、私は負けじと無料飲料の充実度を調査した。宿泊した部屋には、緑茶、ほうじ茶、粉末タイプのコーヒーなどが置いてある。
ふむふむ、なかなかいいが、コーヒーがドリップタイプでないのがちょっと残念だ。と贅沢を言っていたら、テーブルの上に「税込み378円」と書かれた紙カップ入りのコーヒーが置いてあった。こういうのをうっかり飲むと余計なお金がかかるから、事前に宿泊メンバーへの注意喚起が必要だ。
風呂場から戻ってきた父が、そのコーヒーを見て「さすが高級ホテルは、コーヒーまで豪華だね」とのたまったので、私はすかさず「お父さん、それは有料だから、手をつけちゃいけないよ!」と注意した。
「本当だ......これ、有料なのか! しかも378円!? こんな小さな紙カップが!? ここじゃ、すべての値段が巷の2倍だね? いや2.5倍か!?」と感嘆する父を前に、私は得意げであった。危うく余計な出費が増えるところだった。
その後早速、父はティーポットに湯を沸かし、母が無料の緑茶を煮出して、持参した水筒に注ぎ、準備はOK。無料のお茶を入れた水筒を持って出かければ、「喉が渇いた」と観光地のバカ高い喫茶店に入らなくて済むし、自販機の誘惑も断ち切ることができる。すごい連携プレーだ。
価値観が似ている者同士だと、旅行はこんなに楽しいものかと思う。ケチはケチ同士で旅をするのがいいのだろう。なんの摩擦も起きず、贅沢する罪悪感もない。
今回の旅行は、祖父(父の父)がプレゼントしてくれたもので、両親と私にすれば「棚からボタ餅」のような感覚だった。今度は親孝行で、私が連れてきてあげようか、と密かに思ったが、自分にそんな財力があるはずもなく、まだまだ「ケチな娘」を続けるしかないのが、ちょっと残念だ。(北条かや)